刀を交えて花一匁 丙 | ナノ
 16.紅桜篇『終/咲かずに散る花の名を』(6/8)




紅桜が散る。銀色の刃に貫かれ、最後の希望(ひかり)は打ち砕かれた。今となっては誰の、何の為の剣だったのか──そんなもの分かりはしないが。

一度失った腕の根本に紅桜を植え付け、またも思わぬ横槍によって失った右腕は、他ならぬ紅桜自身によって再び右腕に根を張った。自己保存機能が肉体(どうぐ)の維持を促したのか、はたまた人工知能が宿主を守ろうとしたのかもしれない。ともかく再生したそれが、もはや剣どころか兵器とも呼べぬ有様であったことは確かだ。

道具とも人ともつかぬ生きるだけのつぎはぎの姿に、鉄矢は赤子の必死な叫び声を聞いた、そんなゆめまぼろしを見た。紅き光をうしなってなお生き足掻こうとするさまは人じみて醜く、動くたび軋む音は聞くに耐えぬ断腸の悲鳴だった。たゆまぬ鋼のつるぎに貫かれ、己が手で育てたその花が散る様子を、まなざしの奥に刻み込むように眺めていた。

「……」

鉄矢はその子ととも共に息を引き取った岡田似蔵に、静かに黙祷を捧げる。刀鍛冶として、己が作品を芽吹かせてくれた使い手への称賛と感謝だ。本人に何の咎があろうが、何の思惑があろうが、岡田が紅桜を選び、紅桜が岡田を選んだ事実は揺るがない。良き刀が良き主人と出会えることが、実は稀であることを鉄矢はよく知っていた。

「ありがとう、銀さん……」
「へっ……後で慰謝料・迷惑料・迷惑ヅラ料込みでたんまり貰うからな。帰るまでが遠足……アタタタタ絶対折れてるってこれ折れてる銀さんじゃだめだよォ!!」
「頑張れ銀時お前はできる奴だ、挫けんな頑張れ大丈夫大丈夫」

フラついた銀時が床に剣を……つこうとして半ばで折れていることに気づく。傾く体を雑に鼓舞しながら支えたのは血まみれの董榎だった。

「董榎さん、血が……!」
「大丈夫、返り血だ。それよりみんな、一息つきたい所だろうが我慢してくれ。何やら上が騒がしくなってきた。早いとこ退散しないとまた厄介ごとに巻き込まれるぞ」
「ああさっきから怒号やら足音やら聞こえてんぜ……つーかお前どこから現れた? いつの間にか参戦していつの間にか観戦してたけど」
「よし、一番体のデカい俺が先頭に立って道を開こう。鉄子さん、兄貴を支えられるかい」
「ああ。これでも女だてらに鍛冶師やってないよ」
「神楽ちゃん悪いが銀時をおぶってやってくれ。力や瞬発力は随一だし君なら片腕でも射撃できるだろう?」
「おうよ! 大船に乗った気で任せるヨロシ」
「殿は目端が効いて協調性もある新八くんに任せるが……やれるな、長男」
「はい! みんなの背中は僕が守ってみせます!」

「(こ、こいつ……万事屋を手足のように操って……!?)」

突然団結力を見せつける万事屋+村田兄妹+a一同。そうそれはまるで合唱祭を前にしたクラスの一体感……! 何かとサボりが出る文化祭だったらこうはいかねえ!

合唱伴奏者のごとくクラスの熱量についていけてない銀時は戦慄した。思えばこれが彼の悪夢の始まりだったのだ……。









「ギャーハハハ! おーいこっちにボロ雑巾がいるぜェ! こいつらも桂の仲間かァ!?」
「!! 天人か……!」
「董榎兄ィ!!」
「おらよっと。ははぁ、神楽ちゃん射撃もなかなかいい腕してるな! 咄嗟のチームだってのに大したもんだ!」
「当たり前ネ、夜兎の血なめんなヨ!」
「あ、そっちに一人行ったぜ新八くん!」
「はァァァ!!」
「いいねいいね〜本当に実戦初心者かぁ? 地形を使って自分の土俵に持ち込め、お坊ちゃん流なんて呼ばせんじゃねーぞォ!?」
「はい!! 董榎さん!!」

「……なんか、なんかさァ……いやいいんだけどさ」

新八と神楽、俺といる時よりイキイキしてね?

「(つーか、なんかアレ……俺よりリーダーしてね? 目のハイライトもアレなんかいつもと違くね? まっとうなジャンプキャラの顔してね? 画風もどことなく藤巻忠俊じゃね」

銀時は目を擦った。だが何度観ても作画:藤巻だった。なんか結束力と安心感が半端なかった。まるで対洛山編の誠凛バスケ部だった。ゾーンの第二の扉開けて直結連動型ゾーンに突入してた。間違いなく勝ち確演出がでてた。









「……おい、君達……私の事は置いていけ……」
「兄者……!?」
「私は大罪人、ここで助かったとて江戸に戻れば死刑を待つ身だ……余計な荷物は捨てるに限る」
「まだそんなこと言ってるのか!? 私の剣は護る剣だって言っただろ! 兄者を置いてなんていけない、私は兄者と一緒に帰るんだ!!」
「……鉄子」
「兄妹ゲンカなら帰ってからしろ。鉄矢さん、あんた別に死にたいわけじゃないんだろう? なら死ぬまでは生きてみればいいじゃねーか。だってあんた、何一つ失っちゃいないんだから。足掻いて足掻いて足掻いて、小汚く喚いて縋ってみせな。そんで縋りついた手の先のもんちゃんと見ろ。生きていれば人生案外、何とでもなるんだぜ」
「そうだよ兄者、私と一緒に生きよう。隠れて暮らしたっていい、一生逃げたっていい。それでいつか……兄妹で江戸一番の、最高の剣を打たないか?」
「……ああ……ああ、鉄子……お前、こんなに大きくなったんだな」
「ふふ、兄者の声量には負けるよ」

鉄子の冗談に鉄矢は瞳で微笑み、それからガハハハハハハ!!といつものように笑い飛ばし、「耳元でうるせえ!!」と妹に頭を叩かれていた。エエエ今の会話の流れで? あはは、でも仲直りしてよかったですね。やれェ、そこネ、いけ鉄子!いや、ジョー! そんな和やかな会話が交わされる、その端では。

「(食──食われるゥゥゥ!!)」

もはや半分白目である。

いきなりしゃしゃり出てきてちょっとそれはなくね? 腹に穴開けてまでラスボス倒したってのにこれはなくね? 説教は人情コメディ系主人公の十八番だって……ここ万事屋銀ちゃんだから、万事屋董榎さんじゃねーから……オイ、わかってるよな? わかってるよな?

そんなこと言って二度念を押すと、董榎はしっかり頷いた。

「わかってるって。銀時、お前は十分頑張った。あとは俺たちに任せて今は休め」

「(チクショォォォ任せてられるかァァァ!! こんな顔と声と性格と……持ちすぎて没個性みたいな、新八のハイスペック焼き増しバージョンみたいな奴に17億円の男が負けてなるものかァァァ!)」



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