刀を交えて花一匁 丙 | ナノ
 16.紅桜篇『終/咲かずに散る花の名を』(5/8)




──……長いこと闇の中にあると、目玉には映らない微かな光でさえ拾えるようになる。そいつが人間の放つものだと知ったのはいつだったか。線香花火のように人間もまた消えゆく時、ひときわ大きく美しい花を咲かす。

だが稀にコイツを生きながらに背に負う輩がいる。その光はひどく不安定で……攻撃的でそして哀しい色を帯びていた。知ってか知らずかその光に人が集まる。そう、まるで蛾のように。だが一度あの光を見てもう闇の中に戻ることは俺にもできなかった。
俺も立派な蛾だ。再び篝火を失うことを恐れる蛾。そして激しく燃える篝火に呑まれまいと必死に争う蛾。篝火を指針に舞う蛾、どこもかしこも蛾だらけだ。

だか虫けらに混ざって妙なのが一匹。こいつは蛾なんかじゃない。ひどくわかりづらいが確かに、かすかに光が見えた。そう、例えるなら刀。鞘から抜き放たれた鋼の刃。鋭く光る、銀色だ。どうしてかこいつの色は気に入らない。

「銀さん!!」
「銀ちゃん!!」

斬り結ぶ──斬り結ぶ。目障りな光が消えるまで止まることはない。紅桜が俺を呼び、手を取れば激しく誘われる、あれの届かない深海の奥底へ。

すると不思議なことに、その中に一つ黒くて暗い、光が見えた。夜道を照らす月光のやさしさと眩しさとを思わせるそれは、少し首を突っ込むと、見るものを引き摺り込むような空虚が渦巻いてる。
例えるなら月の裏側、寒々しくすさんだ不毛の地。俺はそれを見たことがある。だがわからねェ、あんた、それを抱えてなぜ笑える?


「見とけ、てめーの言う余計なモンがどれだけの力を持ってるか。てめーの妹が魂こめて打ち込んだ(こいつ)の斬れ味、しかとその目ん玉に焼きつけな」


……もう届かないとこまで来たはずだ。なのにあの光はいつまで経っても消えやしない。燦然と輝く、闇も虫けらも、何もかも焼き尽くすような光。俺の方はちっとも見てないくせ、ギラギラと燃えたぎってる。不思議とソイツの周りの奴らは居心地よさげに寄ってって、おんなじような光になってく。俺には熱くて熱くて、参っちまいそうだってのになあ……

ああだけど、あっちもこっちも似たような篝火じゃあ、どっちで身を焦がしたってそう変わんねーかもな。



prev / next

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -