▼ 16.紅桜篇『終/咲かずに散る花の名を』(3/8)
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「俺を殺す……か」
今の彼の姿に記憶の少年を重ねながら、男はうっそり笑う。やはり師弟とは似るものなのだろうか? 純真な愛で相手の首を絞めるところなんかそっくりだ。人の愛し方だけは真似てほしくなかったんだけどなぁ、と訳知り顔で抜かす彼の心中を高杉が知れば、アツアツのフライパンの底で男の後頭部を凹ましたことだろう。
「ん?」
激しい戦闘の痕跡が残る通路を悠々と進んでいた男はふと足を止めた。足元に絡みつく鉄線の塊。船の機体の一部かと思ったが違う。片手でつまみあげると、今にも消えそうな弱々しい胎動が手のひらに伝わってきた。驚いた。この状態でまだ生きているらしい。大部分は焼け落ち、本懐である刃すら失い、みじめに這いずることしかできない身分で、なお。
──紅桜は分厚い鉄線を脱ぎ、ピンク色の急所を剥き出しにした。爆炎の光に照らされた表面はテラテラとぬめり、ドクドクと血脈のように波打っている。まっさらな腹を晒し、服従する犬のように。
「ははっ、かわいー」
人に造られた鬼と、人に造られた妖が出会う。彼らを知るものは、まだいない。
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