刀を交えて花一匁 丙 | ナノ
 15.紅桜篇『参』(2/4)

──ふざけるのも大概にしろ。「ひと暴れ」だと? 仮にも教育者を名乗るなら日本語は正しく使っていただきたいものだ。なら、ふたつ? いやみっつか? 馬鹿言えひゃく暴れだこんなの。

『そんじゃー行ってきます……しけたツラで見送ってんじゃないよ、娘の誕生日前日に戦地に赴くお父さんみたいな気分になる』
『娘じゃない桂だ。しかしいくら貴殿といえどあの人数では……』
『俺は死なねェよ』

作戦決行前、船乗り数人と連れ立って出ていった背中を思い出す。『お前が来る前に全滅しちゃったらごめんな?』などと宣うものだから。ああ気を遣わせてしまったと思いながら、『お好きなだけ』と笑って返したものだった。

いや、冗談じゃない。マジで冗談(・・)ではない。

『……貴様……鬼兵隊の者ではないな!?』
『侵入者あり……グェッ』

『ちわーっす毎度ありがとうございまーすJOYCLUBデリバリーサービスでーす!』

本船甲板に着船、欄干から飛び降りたと同時6人の浪士を斬り伏せた手際に桂は「(あっこれ大丈夫だ)」と双眼鏡を下ろして目頭を揉んだのだった。董榎が稽古以外に剣を振っているところは見たことがなかったので、なんだかんだ心配していたのだがまったくもって杞憂だった、むしろ過剰だった。

あの笑い袋が真顔で『おけまる水産〜』と返した時点で疑問を持つべきだったのだ。だって本気で屍山血河築くとは思わないじゃん! くそっ、一言でも突っ込んでおけばこんなことには……

「鬼兵隊本艦にて爆破を確認! 同盟軍四隻が攻撃を始めました!」
「桂さん!!」
「いつでも行けます」
「……ああ」

今になってとやかく騒いでも致し方なし。既に狼煙は上がった。作戦は成った。決意のこもった数々の眼光が桂に刺さる。嵐の前、一瞬の静けさを保つ船内──ところが重圧をものともせず横切る者たちがあった。

背後から迫る三人分の足音。四足獣の爪が床を擦る音。
こんな風情のない真似をする人間は十数年来、桂の知る限りあの男しかいない。

「お前なら来ると思ったぞ……銀時」
「ふざけんなたまたま居合わせただけだ。俺たちはバカ兄貴連れ戻しに来た。テメェのドンパチにゃ興味ねー」
「そうか奇遇だな俺もこっちのバカに用がある。しかしこれも何かの縁、道草ついで足にくらいはなってやろう」
「……花屋のバカをとんと見かけねぇが、巻き込んじゃいねーだろうな」
「あの人が俺の手に収まると思うか? 自分から巻き込まれに来たよ」

溜息つきながら後ろ髪をかき乱す銀時を横目に、フ、と笑いを零す。
隣にはかつての戦友、空には同士の艦隊。この布陣、万に一つの敗北もなし。仲間たちが用意してくれた好機、逃げの小太郎とてむざむざ逃す手はない。

勝利を掴むこと。そして仲間を死なせぬこと。

桂はしばし瞑目したのち、上空の戦場(いくさば)を示し告げる。

「船を出せ。そして──突っ込めェェェ!!」



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