刀を交えて花一匁 丙 | ナノ
 13.紅桜篇『壱』(4/4)

「いや黙ってたら俺が怒られそーだし」
「貴様ァァァ」
「ごめんご」

桂は素晴らしい仲間たちと心の抱擁を交わしたのち、子供の成長を見守る親のごとく眦にハンカチを当て、しゃらくせぇ顔で涙ぐむ董榎を問い詰めた。

なんと董榎は桂を拾ったその日に、イソスタでエリザベスに連絡を入れていたらしい。やはり持つべきは相互さん。
話し合いの結果、幕府の目もあるため動かさない方が良いと判断し、董榎がそのまま匿う格好に。定期連絡を行う際、ちょうど桂が目覚める素振りを見せたと。

桂が薄い布団でおひさまのかおり……とかやってる間に策は根底から崩れていたのだ。桂はちょっと穴に埋まりたくなった。

「……では、予定通り桂小太郎は死んだと言うことに」
「ああ、分かってるよ。黙ってる」
「我らは鬼兵隊と紅桜について探ります。董榎殿は……」

おくるみ剥ぎ取ってオブラートのようにペラッペラの謝罪をした後の董榎に問うと、彼は首を横に振り、親指で背後にいる桂の仲間を示した。

「協力はするが俺は別で動かせてもらおう。ここまで大所帯で来られちゃ鬼兵隊やお巡りさんにも見られたかもしれん。しばらく大家さんの周りを警戒したい」
「そうですか……」
「すみませんでした…!! 目立つから少人数でとご忠告頂いたにも関わらず、いざ報告を聞くと気が動転してしまって……」
「過ぎたことは仕方ありません。次からは気をつけていただきたいですが……それにしても、桂は良い部下に恵まれたようですね」

賞賛じみた視線で見つめられ、屈強な男どもが無意味に鼻を啜ったり顎髭を引っ掻く。

「吉田殿。改めまして、桂さんを匿っていただきありがとうございます」
「こちらこそ。桂もすっかり大人になりましたが、まだ役に立てることがあるというのは嬉しいものですね」
「はは……桂さんの恩師でエリザベスさんのご友人なんですから、俺たちに敬語は使わんでいいですよ」
「あ、そう? いや助かるわー、あんたらもそう肩肘張らず寛いどけよ。敬語も疲れるしさ、タメでいこうぜ? あ、お茶請けどーぞ。茶は湯呑みが足りないから勘弁な?」
「(わたあめみたいに軽っ)」
「(すげー気さくだ……)」
「じゃお言葉に甘えて……」
「足痺れてたんで助かります」
「この羊羹うまいっすね!」
「喝ッ!! 貴様らァァ俺の恩師に向かってその態度はなんだァァ!!」
「すっ…すみません!」
「(どうしろと???)」

敬語と正座は抜けないものの打ち解けた桂一派と董榎は、部屋に留まり双方の情報と連絡手段を共有した。
といっても現時点の情報もたかが知れている。半刻もあれば話題は出尽くし、残りの時間は今後行う作戦の話し合いに当て、方針が決まればその場は解散となった。

桂の仲間が何度かに分けて裏口から出ていき、最後に再び礼を述べて草履を履いた桂を、董榎が呼び止めた。

「まだ何かありましたか?」

すると見覚えのある冊子が差し出されたので、そういえばと思いながら手を伸ばす。
くたびれて色のくすんだ表紙。小口が日焼けに黄ばみ、中の文字もところどころ掠れた往来書は、本来の使い方を忘れて久しい。
それでも手入れをかかさず持ち歩いていたものだが、今やすっかり裂けて本の形すら失ってしまった。

「直そうか」

いつになく穏やかな眼差しに首を振ると、彼は見透かしたように笑った。
書を授けた手が惜しげなく若草色の表紙を離れ、桂の頭へ長く長く伸ばされる。

「無事でよかったよ。血だらけのお前を見た時は心臓が凍るかと思った」
「先生」
「無茶をするなとは言わないさ、男の子だものな。けどほんの少しこの老いぼれを慮ってくれるのなら、お前の心と体を労ってやってくれないか。頼むよ、大事な弟子なんだ」
「……………分かってやってますね」
「桂は本当に良い子だなァ〜」

子供の頃にやられたように、ガシガシと混ぜるように撫でられる。ぐしゃぐしゃになった髪をそのままに、桂は火照った顔を隠しもせず無力感に天を仰いで瞼を閉ざし、旧友の姿を頭に描いた。

銀時、おお勇者銀時よ、お前、こんな奴を相手にするというのか。
勇者よそれは蛮勇というやつだ。
無謀に過ぎる。この魔王には勝てん。どうせ返り討ちに遭うのがオチだ。

多くは言わん、ただ、やめておけ。



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