刀を交えて花一匁 丙 | ナノ
 13.紅桜篇『壱』(2/4)

「ほほう、なかなか……これはどうですかな?」
「なんの。ならばこうするまで」
「ふふ、私の馬をお忘れでは?」
「おっと、ふむ……」

奉行所で茶しばきながら将棋打ってたら、どこからか煙の匂いが漂ってきた。厳ついサングラスの男が逆光を浴びて葉巻をふかしている。

「フッ、見覚えのある顔だと思えばアンタか」
「よ、小銭形さん」
「帰ったぜボス」
「ボスと呼ぶな何度言ったら分かる小銭形」
「ボスwwwwwwwwwwヒッ……」
「ほら吉田殿が窒息しちゃったじゃないのォォ!」
「俺は人に笑われるぐらいでちょうどいいのさ
【他人から見れば滑稽に思えるこだわり……しかしそこに男の全てがある】
 そう……それがハードボイルド」
「台詞の途中でモノローグ挟むな。とっとと次の見回り行ってこい」
「OK, 我が命に変えても! またな同胞」

小銭形さんはフッと笑い紫煙を残して去っていった。ハードボイルドだ。

「すみませんなんだか慌ただしくて」
「私のことはお気になさらず。しかし忙しそうですね」
「聞いたことはありませんか、最近ここらで辻斬りが出ると」
「ああ、噂には」
「おかげでウチはてんてこまいです。住民たちも不安がっていますし早く捕まえたい所でね」
「おや、こんな所でのんびり指してていいんですか」
「休憩中に何をしようと自由でしょう?」
「ふふふ、やけに長い休憩ですが、黙っていましょう」
「是非とも。とはいえ今日はこれだけ打ったらおしまいにしますか。吉田殿もお気をつけて」

大局では勝っていたはずだが、王を逃して勢いのまま詰まされ玉は奪われた。

あなたは詰めが甘いと上機嫌な笑い声を後にして仕事に向かう。今日は欠員が出たダイニングバーのヘルプだ。そういえばかなり前に小銭形さんを誘ったがいつ来てくれるのだろう。まさかあのハードボイルドさでバーに行ったことないなんてあるはずがないし、誘ったこと自体忘れてるのかもしれない。

深夜、酒の匂いを纏わせながら帰路に着く。
花屋の近くに来ると、酒に混じって鉄くささが鼻についた。

大きくなる足音。潜んでいるわけではないらしい。店先と勝手口を通り過ぎて振り返る。
そこに、思わぬ客が月光に長く影を伸ばして佇んでいた。



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