刀を交えて花一匁 丙 | ナノ
 12.恋にマニュアルが来い、なければ金でいい(3/4)

その日、昼下がりの公園には異様な光景が広がっていた。白い鉢巻、木刀、寺門通親衛隊隊長の羽織、そして猫耳。身体中にオーラを迸らせながら家康像の前に仁王立ちで佇む一人の少年。散歩に来た老人やカップルや親子連れが公園に訪れてはア、ヤベッという顔をしてそそくさ通り過ぎていく。

「コォ〜」
「オイオイオイ戦争にでも行くつもりですかアイツは? 一人だけオーラが違うよ」
「アチャ〜やっぱ読んでなかったか、いやァやっちまったなホント、あれじゃイヌまるだしっならぬチェリーまるだしっじゃねーかアチャ〜」
「なるほどね。最近様子がおかしかったのはこーいう事だったのね」
「そうだよねェェあんな気合入れた格好してりゃ気付くよねそりゃ、新八くん本当スマン切腹して詫びるアやっぱカレイの開きで許して」
「手紙によるとそろそろ女も来る時間ネ」
「あーあーもう、悪、即、斬!でフラれる未来しか見えね〜。やっちまったな〜ホント、やっちまったなァ〜」
「……お前なんでいんの?」
「己の罪を見届けに」

今俺たちは茂みから新八くんのデート現場を見張っていた。背後を通る子供達の視線が痛い。

というのも、今朝こそこそ警戒しながら家を出て行った弟を心配した妙ちゃんが万事屋に相談し、神楽ちゃんが新八くんの部屋でデートの待ち合わせ場所や時間が書かれた手紙を発見し、じゃあ行ってみるかと銀時が提案して現在に至る、らしい。人権とは。かくいう俺もやけに気合の入った格好の新八くんを見かけてまさかと思いここまで尾けてきたわけだが。新八くんのプライバシー皆無だな。

「まァそーいうこった。これで安心したろ、邪魔者は退散するとしよーや」
「未来の志村家の跡取りを生むかもしれない娘ですよ。この目で見極めます」
「気が早ェ〜んだよ。嫌な小姑になる匂いがプンプンするぜ」
「俺には責任がある、新八くんの恋のキューピットになる責任が……」
「お前はなんの業を背負ってんの? そのナリでキューピット? 絵面グロすぎんだろ」
「ダメです許しませんからね。もしその娘が『けん』という名前だったらどうするんですか? 一人の偉大なコメディアンが誕生してしまうのよ」
「いねーよ!! 『けん』なんて名前の女!!」
「いや分かんねーよ。名前が『けい』だったら『けいちゃん』略して『けん』ってあだ名が付くかもしれねーだろ! テンション上がってきたァ!」
「なるかァァァ」
「あっ、来たアル!!」

新八くんの元に一人の娘がやってきた。ペコペコ頭を下げてるのは「待たせてごめんなさい」「いや今来たとこ」みたいな背中が痒くなる会話を交わしているのだろう……か?

「ちょっ…何アレ! 猫耳じゃないのォ!! きいてないわよあんなの!!」
「あ〜あの謎猫耳そーいうことか! うわ〜やっちまったァ、相手に合わせろって相手に合わせて猫耳つけろってことじゃねーよォあーあ」
「董榎兄ィがあの猫耳指示したアルか?」
「してない……はず、いや待って記憶が曖昧になってきた言ったかもしれない猫耳、もしかしたらアソコらへん間接的に猫耳を表してたかもしれない」
「冗談じゃないわよ!! 私猫が大嫌いなの!! 犬派なんです!」

ついに妙ちゃんが立ち上がった。茂みから飛び出そうとするのを銀時と二人でせきとめる。銀時はアレでいて優しいし同じ男として年下に気遣ってやってるんだろう。俺は若人の浮かれた恋愛模様を特等席で眺めたい。大好物なんだァこーいうの。大人になったあともイジれるネタがあるってのはいいことだ、ウン。

「犬も猫も似たようなもんだろ。もしかしたらアレも犬の耳かもしれんよ実際」
「そーそー犬耳なら愛せるような気がしてこないか? ほらつぶらな瞳がハチ公そっくり」
「犬だったら犬だったで志村家に嫁いだ犬『志村犬』の誕生だろーがァァ!」
「何その強引な誕生のさせかた!? 遺伝子革命!?」
「新八くんシスコンこじらせてんな〜と思ってたけど妙ちゃんも大概ブラコンだよな」
「誰がブラコンよ!! 私はリモコンで操作できるような都合のいい女じゃありません!」
「それラジコンだろーがァ!!」
「うっ……もーやだ、もーうんざりだ、パソコンなんてもう触らねーぞ絶対にだ」
「てめーはいつまで引っ張ってんだァァ」

前途多難なデートが始まるのであった! 続く!



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