刀を交えて花一匁 丙 | ナノ
 10.壁に耳あり障子に目ありゴミ箱に(2/2)

「この泥棒猫」
「うわっ、ビックリした」

居酒屋裏口のポリバケツを開けたら眼鏡っ子がこちらを見上げていた。何を言っているのか分からないと思うが俺にも(略)

「えーと……そこ苦しくない?」
「ごきげんよう。私はさっちゃん。人は私を愛の始末屋と呼ぶ」
「あっこれはご丁寧にどうも……さっちゃん? 『さっちゃん』さん?」

「アナタ銀さんの婚約者だかなんだか知らないけど」
「どこ情報ですか?????????」

「残念だったわね! もはやアナタの知る銀さんはここにはいないわ! 何を隠そう銀さんの今のメス豚はこの私! 坂田銀時が愛しているのはこの猿飛あやめなの!」
「今のメス豚って何? つか婚約者って何? 俺初耳〜」
「アナタのそれは所詮家同士が決めた偽りの愛っ! 言わばあなたは当て馬! いつだって勝つのは本物の愛なのよ!! 何人たりとも私たちの愛を妨げることはできない!!」
「やべー全然まったく何言ってるのか分からん。存在しない記憶か?」

バナナの皮と茶色いモノを被った眼鏡っ子に泥棒猫呼ばわりされる状況、まるでわけがわからないよ。その茶色いの納豆? 潰れた納豆だよね? さっちゃんのアイデンティティだもんね?
助けて俺にツッコミは無理だ。急募、新八くん!

「とはいえアナタは銀さんの先生……言わば銀さんの親同然。銀さんの家族を始末して引き剥がすなんて私にはできない……」
「ア、そこは伝わってるんだ」
「さしあたって見極めるためにしばらく張らせてもらったわ」
「最近たまに感じてた視線はそれか〜」
「アナタ、人を殺したわね」
「へえ???」
「とぼけても無駄。私の獲物……銀さんの悪質ストーカーを始末するところをこの目で見たんだから。正直よくやった」
「本音モロに出てるけど。隠す気ねーのか」
「私は別に、アナタの手が血に汚れていようとどうでもいいの……人間誰しも清廉潔白ではいられないわ。でもその事、銀さんは知ってるの? もしもアナタが銀さんを騙しているのなら、私は容赦しない……」

それからさっちゃんは怪訝そうに顔を顰めた。俺が自分の顔を手で覆って俯いたから。ニヤける口元を押さえることができない。俺があの子の親だなんて不相応に過ぎるけれど、我が子の成長を目にした親はきっとこんな気持ちだ。
ほんの少し寂しかった。嬉しくて、たまらなかった。独り立ちだなんてとんでもない、独りで屍の中を歩き続けたあの子にようやく居場所ができたのだから。あの子にも守るものがある。あの子を想ってくれる子がいる。万事屋銀さんが集めた宝物を見ることができる。それが、こんなにも喜ばしい。

「ありがとうさっちゃん。銀時を好きになってくれて」
「べっ…別に好きじゃないっ!! ……ハッ」
「そこでツン出す?」
「すすす好きじゃなくて愛してるって意味! 急に煽てて何? そんなことで誤魔化されると思ってるの?」
「お、あったあった」
「……何、写真……?」
「この手が汚れてることも銀時がたぶん俺に夢見てるのも事実だけど、アイツらは元気だぜ」

さっちゃんがスマホの画面を凝視している。毒物を大量摂取したせいでマヨネーズと小豆が食えなくなった三男が笑顔でチキン南蛮丼を頬張る写真。かつて事故で全身打撲を負った次男が真剣な顔で畑を耕す写真。人間不信だった長男が農家のおじさんと将棋を指し酒を酌み交わす写真。その他。

「夜10時就寝朝5時起床、太陽の光浴びながら身体動かして腹一杯食って遊んで寝て、正直羨ましくなるほど健康的で文化的な生活してるよ」

写真を行ったり来たりした後スマホを返してくれたさっちゃんはまだ神妙な顔をしている。というより戸惑っているようだ。

「……そんな、でも私は確かに……」
「農家のおっさんが人手不足つってたからちょうど良かったわ〜。アイツらもこっちで仕事やってた時より楽しそうだしな。あ、コレ送ってもらった新じゃがの写真。じゃーん、フライドポテトに生まれ変わりましたー」
「……そうね。恋敵でも、証拠があるなら信じざるを得ない」
「恋敵ではねーですが??? そうだ、その話の出どころを詳しく……」
「でもソレとコレとは話が別! よく聞きなさい……アナタの登場は8巻巻末相当、対して私は5巻……そう! ヒロイン歴でも愛の深さでもアナタは私に負けている!! 過ごした年月なんて創作物ではささいな問題なの、いつだって幼馴染は負け犬ポジションなのよ! オーホッホッ! せいぜいそこで吠えてるがいいわ!!」 

………ええ………行っちゃった……。とんでもねー誤解ととんでもねーブツ(茶色いの)頭に乗っけたまま行っちまったよあの子……婚約者ってどこ情報か最後まで教えてくれなかったし。俺もアイツも実家ねーんだけど。

「危っぶな、くノ一バカにできねーな……」

やっぱ悪いことはするもんじゃないわ。



prev / next

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -