刀を交えて花一匁 丙 | ナノ
 08.バイト戦士VS鬼の副長 ファイッ(3/3)

「究星外務省地球局所属、江戸駐箚専門調査員の吉田董榎です」
「……専門調査員?」
「研究機関から派遣されて外交先の星の政治、経済、文化形態やらを調べる……留学生みたいなものですかね……」
「待て待て勝手に端折るな」
「面倒でつい」
「長ったらしい肩書き並べておいてっ?」
「この間はこちらで手違いがありまして失礼致しました」

前掛けを外しラフな格好になった男は人気のない路地で頭を下げた。定食屋の裏口を占領してしまっているが、ここを使えと言ったのは他ならぬ店主の親父である。

「究星、哭族……聞いたことねぇな」
「巨大な銀河を構成する小星の一つ、知らないのも無理ありません。あまり交流を好まない種族なんです」
「この身分証は本物なのか」
「もちろん。ですが信じられなければこの名で幕府に確認を取っていただければと。出会いが出会いですし」
「指名手配されてたワケを吐け。信じるかどうかはそれからだ」
「守秘義務に抵触しますので。あなたも上から釘を刺されたのでは」
「口止めされたし無回答だったが探るなとは言われなかったな」

端正な顔に『嘘だろこの不良警察』と言いたげな表情が浮かんだが、瞬きの暇もなく笑顔に塗り替えられる。恐ろしい早業である。土方じゃなきゃ見逃しちゃうね。

「まあ、正式な身分証があって上からの要請もある。ならもうお前をとっ捕まえるような事はねェが……」

頭を掻く土方に男が意外そうに目を眇めた。ちなみに監視しないとは言ってない。

「一応聞いておこう。お前は何者だ?」
「さあ……真実がどうあれ、事実はこの通りですから」

頬に唇を寄せ、男は歌うように囁く。

「アンタも好奇心に殺されたくはないだろう、土方くん(・・)?」
「……テメェ、それが本性か」

揶揄うような声音。悪意とも善意とも取られぬ視線。はぐらかされたと理解するには十分だった。



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