▼ 06.お前は変わらない(2/2)
頬を撫でる風に知らず目を細めた。覚えもなく開け放たれた窓。障子の中から雪崩を起こした布団や着替え。物が少なく実に探しがいのなかったことだろう。足元に落ちていた小綺麗な茶封筒を拾い、ひっくり返して中身を落とす。
「……ふ」
やけに現実的で笑ってしまった。戸籍、住民票、預金通帳、キャッシュカード、それに──。どうもご丁寧なことで。彼らはPの存在が、政府の闇が世間の目に触れるのがよほど恐ろしいらしい。後ろ暗いと感じるならしなければいいのに、とどうにもならないことを思う。いや、それよりも。
「吉田、董榎」
カードに刻まれた苗字を指でなぞる。彼らなりのジョーク──というより、精一杯の皮肉といったところだろう。
「……ふはっ、ははは」
心臓の奥から迫り上がるもの。どうしようもなく愚かな感情。愛おしさ。怖がりで、虚勢を張って、精一杯威嚇して、そのくせ他人の痛みには疎いなんて。やはり可愛いじゃないか、人間というヤツは。困ったなあ。笑いが止まらない。
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