ビザールは奥にいるらしいライト=ノストラードに確認しに行く。
「ライトさん、あの席、見えますか?」
「は?ああ、あの奥の席ですか?はい、彼らが何か?」
休憩をもらっていたのだろう、両手に握るコーヒーカップに力が入る。
「いや、見覚えはありませんか?」
ビザールに言われてじっと見てみるが、今一つ記憶にない。
「特に記憶にはありませんが……まさか、マフィア?」
「いえ、そうとは限らない。そうですか。わかりました。」
ビザールは首をふりふりカウンターに戻る。
戻って来るなりビザールはフェイタンに話しかける。
「フェイタンくん、そこの棚に入っている調味料と、調理器具をとってくれるかい?」
と言いながら意味深に指をさす。フェイタンはすぐに凝で目を凝らす。
『ノストラード氏は見覚えなし。君達の事を嗅ぎつけた可能性あり。』
と記されていた。
フェイタンはこく、と頷くと調味料などを取りながら同じ事をルカに伝えるため周りを見渡す。
───これで良いね。
そばに置いてあったお手拭きを入れる箱から2、3取り出すとルカを呼ぶ。
「ルカ、そちの席に新しい手拭き持ていくね。」
となんとなーくぼんやーりと何処かを指す様に指を動かす。
ルカもすぐに凝で目を凝らす。そして、神妙な顔で頷くと、何事も無かったように
「了解っ!」
と笑ってお手拭きを受け取った。
結局その日は何事もなく終わった。怪しげと思われた男達も何をするでもなく、酒場を後にした。
客が誰もいなくなり、ライトとネオンも住んでいる家へと戻ると入り口は閉じる。
「杞憂だったか……?」
ビザールはつぶやく。
「確かに何も動きは無かったですね。フェイタン、どう思う?」
ルカが聞く。
「油断は出来ないね。こちを狙てるのか、あちを狙てるのか……まだ判断は出来ないよ。」
多くの事態を経験して来ている彼らは他人に対して簡単に油断はしないのだ。
一度謎の男達の話題はそこで終わった。何も動きがなければこちらも動くわけにはいかないのだ。
「それにしても、今日は助かったよ。お金はいらないって聞いてるからな、夕飯でも食べていくかい?」
ビザールの言葉に甘えて二人は夕飯をいただくことにした。
夕飯を食べながらルカとビザールの積もる話とやらに耳を傾けていたフェイタンだったが、時刻が23時をまわった頃遠くからバタバタと走ってくる音にいち早く気がついた。
「……」
口元に指を充ててルカとビザールに静かにする様に示す。すると二人にも足音が聞こえたらしい。三人目を合わせた瞬間、店のドアが激しく叩かれる。
「ビ、ビザールさん!ネオンが、ネオンが攫われた!!!」
息も絶え絶えそれだけ言うとドアの前に崩れ落ちた。
「ライトさん!」
ビザールが叫んでルカと二人、ノストラード氏を店の中に入れる。
倒れたノストラード氏をルカが抱えるとその手にべっとりと血が着いた。
「斬られてる……!」
すぐに翠の夜想曲(ロイヤルノクターン)を発動しようとしてフェイタンがその手を止める。
「何で止めるの?」
「傷見るのが先ね。ビザールどうか?死ぬ様な傷ならルカの力を使う、そうで無いなら使わない。ルカに負担がかかるとこれからのワタシ達の行動に弊害が出るからな。」
フェイタンに言われてビザールが傷を見る。幸い傷は浅く命には別状はなさそうだ。
「問題ない。」
「で、でもビザールさん、私なら完治させられる!」
ルカはなおも食い下がるがフェイタンが言った。
「ルカ、行くよ。盗られたらものは盗り返しに行くね。」
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