「ただいまー!」
部屋で呑気にコーヒーを啜りながら昨日買った本を読んでいたフェイタンはルカの声に顔を上げたが、その声に僅かにいつもと違う音を感じて立ち上がる。
本に指を挟んだまま玄関まで行くと、表情はいつもと変わらないルカが靴を脱いでいた。
「結構遅かたな。」
「あ、うん、簡単な仕事のはずだったんだけど、色々あって、一国の救世主してきたんだ。」
やはり、違う。いつもより声が少し高い。この時はルカが何かを無理している時だ。しかし見た感じ外傷はない。
ならば…
「ルカ、翠の夜想曲使たか?」
これしかない。
ルカは靴を脱ぐ手を止めると
「えと…ちょっとだけ。」
と言った。
使っていない、という嘘はどうせフェイタンにはバレる。
「……」
フェイタンは何も言わなかった。
フェイタンも、ルカにそれをやめろと言っても無駄だとわかっているからだ。
だから靴を脱いで立ち上がったルカをただ後ろから抱きしめた。
「全く、何の仕事か知らないけど、無理は駄目ね。」
「フェイタン…。うん、ありがとう。大丈夫、ちゃんと加減しながらやってるよ。」
自分の為ではない。自分が辛そうだと、フェイタンが心配するからだ。
ルカはちゃんとリオーネ襲撃前のあの時フェイタンと交わした約束を守っていた。
自分の為でなく、フェイタンの為に生きること。
フェイタンの為に死を回避する事。それは無理な事でもなんでも無かった。
互いに互いを生かす為に選ぶ死なら文句は言わないだろう。しかし互いに互いの為に生きる事も忘れはしない。
そうやってこれからも2人で生きて行くと決めた。
そうやってこれからも2人で死ぬと決めた。
心も身体も常に共にありたいと願ったから、今この幸せはある。
それでも忘れてはならない。
幸せは突如失われるかもしれない事を。
彼らは盗賊。
殺人者。
賞金首。
幻影旅団なのだから。
〜Fin〜
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