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ナイトクリミナル

目に焼きついたのは深い赤。

鼻に残るのは強い強い血の臭い。

耳に残るのは裂ける様な悲鳴。

肌に残るのは少し冷たい手。





「……っはぁ、はぁ……!!」

女はガバっと身体を起こす。胸を押さえて枕元においてあった携帯で時間を確認する。
時刻は深夜0時30分。

───またこの時間に目が覚めた。

この時間に目覚めてしまう理由ははっきりと自覚していた。
ちょうど1ヶ月前、大学を卒業した女は謝恩会というものに参加していた。
恩師や友人に挨拶をしたり、両親にこれまでの感謝を伝え社会人として生活する覚悟を決める場のようなものだと女は考えていた。

謝恩会の会場はクルーズ船。
そこでランチとしてフルコースの料理が振舞われた後は談話。約3時間ほどかけて海上を航行した後、港に戻り、解散となる。

だが、その海上で悲劇が起きたのだ。

船に乗り込んで60分。
船は大きな音とともに衝撃に襲われた。

辺りに広がる悲鳴。座礁か、他の船との衝突か。

何にせよ辺りに響き渡る悲鳴の中、女だけは持ち前の冷静さで周囲を観察していた。
衝撃は1度だけ。けれどその代わりに聞こえたのは船の前方から上がった男の悲鳴。

そしてその瞬間に女の鼻に血の臭いが届いた。
これはなにかまずい事が起きている。座礁や衝突なんかではなく、何者かがこの船で血の臭いをさせるようなことをしている。

咄嗟にそう思った女は床下ギリギリまで届くテーブルクロスの掛けられたテーブルの下に隠れた。

隠れ場所としてはシンプルすぎるものだが、海上で逃げる時間もないと判断したため隠れる場所はそこになったのだ。

隠れること1分。

悲鳴と血の臭いがどんどんと近付いてくる。そしてそれにあわせるように悲鳴も近付いて、女はギュッと眼を固く瞑った。
銃声はしない、けれど間違いなく誰かが人を殺している。

減っていく悲鳴の代わりに濃くなる血の臭い。
ばれませんように、ばれませんように、と心の中で何度も祈る。

そして聞こえていた悲鳴が一切聞こえなくなったと思うと、

「全員殺ったか?」
声が聞こえた。男の声だ。
「多分もういないと思うね。」
これも男の声だ。少し訛りがあるように感じる。
「それじゃちゃっちゃといただいて帰るとすっか。」
「そうね。」

どうやらばれなかったようだ。
男達の足音が少しずつ遠ざかる。ホッと、息をつこうとしたその時

「フィン、先に行てるね。」
と訛りのある男の声がそういって、足音も1人分止まった。

女の目が見開かれる。立ち止まった男の足音が踵を返して女に近付いてくる。
なぜ、その男が戻ってきたのかはわからない。けれど、その足は間違いなく、女の隠れるテーブルに近付いていた。


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