×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




5

「この男がどうしたんですか?」

「彼は君が入ってから割とすぐに退職した男なんだが……なんというか、どうも被害妄想の激しい男でな。」

いまひとつ工場長の言いたいことがわからなくてクウが首をかしげていると、
「いや、変に取り繕っても仕方ないな。実はこの彼が退職する、と言った時に当然工場長として理由を尋ねたんだ。そうしたら、君に無視されたから心が深く傷ついた、と言ってな。」
と言ったのだ。
あまりのことに思わずクウが目を見開く。

「そんな顔しなくてもわかってるよ。別に君のせいじゃない。その後も話を聞いてみたんだよ、そしたら彼の指す無視は=視線を逸らされた、というだけらしくて、君に話しかけたことすらなかったようだ。」

「私も、話した記憶、ないです。名前も知らない。」

「だろうね、視線を逸らすといっても別に意図してやったわけではないだろうね。君は初日から優秀であちこち引っ張りだこだったようだし。それで、その彼がいざ最終日に私に向かって言ったんだよ、君のような従業員を採用したこの会社がつぶれれば良いとね。まあ俺の憶測だが、彼は君に一目ぼれしていたんだと思うよ。」

何ともクウにとってみれば胸糞の悪い話をしてくれた。

記憶にも残らないような男から勝手に好かれ、挙句工場に迷惑をかけた。自分が悪いわけではないとわかっていてもつい工場長に謝ってしまう。

「いや、君のせいではないし、君をクビにしたりはしないから安心してくれ。それに俺が今話した内容もまだ確定ではないし、まずは警察に彼の話をしてみよう。」
と工場長は言って、クウは一旦持ち場へと戻る事になった。

クウは戻りながら、以前もバイト先でこんな事があったなぁ、と思い出していた。

その時はフェイタンに協力してもらってその男は殺した。
だが、今回はとりあえず警察に捕まっているようだ。

だが、ある意味精神異常者とも言えるほどの被害妄想がきちんと医者に病気として認定されれば、それこそ法では裁けなくなるだろう。

───またフェイタンにたのんで殺さないと。あんなヤツが野放しになったらまた工場に被害が及ぶかもしれないし。

持ち場に戻ると早速野次馬根性のある何人かの従業員がクウに事情を聞いて来たのでクウは例の男の事を聞いてみた。

すると多くの従業員はあまり係わり合いになりたくないと思っていたのか、男とは親しくしていなかったようだ。
だが
「けどそういえばあの子、なんか昔にも似たような事件起こしたみたいね。まあ本人は事件だ何て思ってなくて、誇らしげに語っていたけど。」
と1人の従業員が言った。
詳しく話を聞いてみると、どうもストーキングしていた相手を暴力で支配した、というような内容だった。当人は犯罪とは思っていなかったようだが、結局その女性は警察に助けを求め、シェルターにしばらく匿われた後、男の知らない遠くへ逃げたようだった。

「私は暴力振るわれたりしてないですけど……」

クウが言うと
「まあ、サギシマさんはしっかりしているし、真剣なときの表情はすごく強そうに見えるからね。」
と笑われた。

「わ、私そんな恐い顔してますか?」

「基本ニコニコしてるけど、たまに、ね。」

フェイタンを愛してからすっかり人間らしくなってしまい、ポーカーフェイスも出来なくなってしまっていたらしい。
───気をつけないとな。バイトではエガオエガオ。

「すみません、気をつけます。」
にっこり笑うと
「きっとあの彼もその笑顔にやられちゃたのよ。」
と言われてしまい、果たして笑顔が良いのかクウはわからなくなってしまった。
───でもま、何かあれば殺せばいいだけだし、今は笑顔作っておいてもいいよね。



[ 13/24 ]

[前へ] [次へ]




TOP