04
「ああ、名字、丁度いいところに」
「源田くん?どうしたの?」
「すまないが古典の教科書を貸してくれないか」
「へー、源田くんでも忘れ物とかするんだね」
「昨日予習したまま、机の上に置き忘れたみたいなんだ」
トイレからの帰りにA組から出てきた源田くんと鉢合わせた。どうやら古典の教科書を忘れたらしく困ったように笑う源田くんに私は快く了承した。源田くんならなんの心配もない。前に一度南雲くんに貸して落書きだらけになってかえってきて、私が先生に落書きするなと怒られるハメになったた苦い思い出があるが源田くんなら絶対に大丈夫だ。今月のお小遣いをかけたってかまわない。南雲くんにはもう貸さないと誓ったけど。
私は源田くんが好きだ。大好きだ。といっても恋愛面ではないんだれど、人間的に友達として大好きなんだ。優しいし頼れるし。人気があるもの頷ける。吹雪くんとかには本人に大好きなんて口が裂けても言わないほうがいいよと一応忠告されているけど。うんわかってる。そんな恥ずかしいこと言えるわけない。
「それじゃ、いこうか」
「ああ、悪いな」
「困ったときはお互い様、でしょ?」
「それもそうだな」
源田くんと連れ立って廊下を歩く。どうやらA組は私たちより少し進んでいるらしい。きっと先生の出張によって潰れた1時間の自習分だ。
「ノートとかワークとかは貸さなくて大丈夫?」
「ああ、多分大丈夫だ」
「えーっと、古典古典」
「あ、やっぱり念のためにノートも貸してはくれないか」
「いいよいいよ、一式持っていきなよ」
源田くんは非常に男前だ。まずサッカー部は無駄に顔がいい子が多い。その中でも群を抜いてイケメンなのが源田くんだと私は思っている。私のクラスの基山くんや吹雪くんもイケメンイケメンと騒がれているが源田くんも負けてないと思う。きっとそれは性格も群を抜いてイケメンだからだろう。
「へえ、こんなんがタイプなんや」
「え?」
「ちょ、リ、リカ!」
「なんなん?図星なんやろー?」
「いや源田くんはカッコいいと思うけど、でも別に」
「……」
「隠さんでもええやーん!」
「だーかーらー隠してないってば!」
「……」
「なんですぐそっちに繋げるかなあ」
リカが突然現れたかと思えばただ教科書を借りにきた源田くんとの仲を勘違いしてくれたみたいで一人で盛り上がってる。ちらりと源田くんを盗み見れば意外にも源田くんが照れて赤くなっていて自分の頬に血液が集中していくのがわかる。なんやなんやー?あんたらええかんじやーん!……今ほどリカを恨んだことはない。声が大きくかつ高いリカの声が教室に響き渡る。視線が痛い。
「げ、源田くん、場所変えよう」
がたんと椅子を引き私は源田くんの腕を掴んで教室の外へと連れ出した。基山くんがあああああっ!なんて叫んでいたような気がするが今は気にしないことにした。
「なんかリカがごめんね、源田くん」
「いや、俺は別に。それよりも俺のせいで」
「源田くんのせいなんかじゃないよ」
「でも俺のせいで吹雪に、」
「はい?吹雪くん?なんでそこで吹雪くんが出てくるの?」
「え?2人は付き合ってるんじゃ、」
「ない!ないないない」
「そ、そうか」
どうやら源田くんはまだ信じていたらしい。噂されることはもうなくなっていたから忘れ去られていたとばかり思っていたけど。ならよかったんだ、とほっと息をつく源田くん。名前がんばりやー!教室の窓から手を振るリカにため息をつけば源田くんの大変だななんて声が聞こえてきた。まったくだ。
「で、どないなったん?」
「いや別にどうもなってないけど」
「なんやおもろないなァ」
「面白いも面白くないも源田くんは、ただ教科書借りにきただけなんだけど」
「ほんまになんもないん?」
「あるわけないでしょ」
「なんやつまらんなあ」
源田くんと別れて教室に戻った私を待っていたのはリカだった。きゃっきゃと絡んでくるリカを適当にかわして席につけば丁度よくチャイムが鳴った。つ、つかれる。
つんつんと背中をつつかれ渡されたノートの切れ端。リカからかなと思ったけど、方向的にそれはありえない。かさりと開いて中身を確認してみれば予想外の吹雪くんからだった。
『今日の放課後空いてる?』
『特に予定はないけど』
『ならちょっと付き合って』
『どこ行くの?』
返事は返ってこなかった。代わりに授業終了後、勢いよく腕をひかれた。吹雪くんはいつもより口数が少なくなんだか不機嫌そうで、目的地につくまで結局一言も話していないことに気がついた。私のせい、なのかな。