02


「校長の話長すぎや!」



式終了後、早速愚痴をこぼすリカと連れ立ち教室へと戻る。確かに校長先生の話は長かったけれど、それがセオリーってもんだ。ここから始まるんだと思えばわくわくしてくる。リカにはなに一人で笑っとん?とか訊かれたけれど。
新入生紹介で呼ばれる新入生の名前を注意深く聞いていたこともあり基山くんたちが言っていた緑川くんという子はA組だということがわかる。緑川っていう苗字の子は彼一人だったからおそらく間違いない。えっと。リリリ、リ、リュウ、リュウタロウ?リュウイチ?とりあえずリュウなんちゃらくん。どんな子なのか凄く気になる。



『なあ、今日暇か』

『うん、暇だけど』

『カラオケいかへん?』

『カラオケ?いくー』



HRの時間、担任が今年一年の、去年も聞いた諸注意等をつらつらと述べているのをぼうっと聞いてた私にリカから手紙がやってきた。担任にばれないようにそっと返事を書き、リカへと回してもらう。



『決まりや!ついでに誰か誘わん?』

『誰かって?』

『せやなあ、秋とか夏未とかは?』

『夏未ちゃんは絶対にこないでしょ』

『あ、そや!春菜の入学記念に春菜誘わん?』

『春菜って鬼道くんの妹の、あの?』

『せや』

『でも私春菜ちゃんのことよく知らないんだけど』

『大丈夫や、ウチにまかせとき』



春菜ちゃんも雷門出身だけど、顔を知ってるくらいで話したことはない。ちらりとリカに視線を移せば返事が待ちきれないのかじっとこちらを見つめていた。こくんと頷けばよっしゃ行くでえっ!と声を上げ、注目を集めるもんだからなんだか私まで恥ずかしくなった。




「ねえ、名前ちゃんちょっと時間ある?」



放課後、基山くんが話しかけてきた。友人と会話中のリカに目をやるとお腹を抱えて笑っていた。



「多分、大丈夫」

「1年の教室行かない?」

「緑川くん?」

「うん、まあね」

「行く!」



教室を出れば涼野くんと鉢合わせた。丁度良かった風介たちも緑川のところ行かない?基山くんが涼野くんに声をかける。たち、というところが気になったが疑問はすぐに解消された。ばたばたと忙しい足音がして南雲くんが教室から飛び出してきた。その後ろには砂木沼くんもいる。じゃあいこうか、すたすたと歩く基山くん。もう一度リカの様子を確認してみるも話はまだ終わりそうもなかった。
近くでまじまじと砂木沼くんを見つめているとあることに気がついた。



「ねえ、砂木沼くん」

「……なんだ」

「砂木沼くんて、カッコいいね」

「え」

「「「はああ?」」」



がしり、南雲くんに思い切り肩を掴まれた。痛い痛い痛い!そしてそのまま上下に勢いよく揺さぶられた。



「考え直せ、名字!やめとけ!後悔するぜ!」



それじゃあ、砂木沼くんに失礼じゃないかななんて思いはしたけれどあまりの気持ち悪さに口を開けば朝食べたパンがこんにちはしてしまいそうになる。基山くんは大丈夫?と心配そうに背中を擦ってくれたけどごめん、逆効果です。涼野くんは南雲くんに悪態をついていて、なぜか南雲くんより先になにも悪くない砂木沼くんが謝ってくれた。砂木沼くんはイケメンだった。途中で帰っちゃったけど。



「や、緑川」

「ヒロト?……にバーンにガゼル」

「バーン?ガゼル?」

「バーンは俺で」

「ガゼルは私だ」

「まあ、アダ名みてーなもんだ」

「ふうん、でもなんで基山くんは名前?」

「さあな、俺らはアイツほど仲いいってわけでもねーからな」



南雲くんたちと話し込んでいるとぽんぽんと優しく肩を叩かれた。振り向けば基山くんと緑色の髪のポニーテールの可愛い子。



「君が緑川、リリリリ、リュウ、リュウ、えーと」

「リュウジです」

「リュウジくんか!私は名字名前です。はじめまして」



実際に目にした緑川くんはいい方面で想像以上だった。よろしくおねがいしますと頭を下げる緑川くんにきゅーんと胸の奥が閉まってむずむずして抱きしめてみたい衝動に駆られた。



「大丈夫ですか?」

「え?」



にやける口元を手で覆い隠していると心配した緑川くんが覗き込んできた。ぴょこんと跳ねるポニーテールと黒い瞳が必死に押さえ込んでいた衝動を掻き立てる。



「緑川くん!」

「はい」

「ねえ、」

「はい」

「ぎゅってしていい?」

「はい?」



さすがに抱きつきはしなかったものの、恥ずかしいですからと困ったように笑う緑川くんに決心がぐらぐらと揺らぐ。可愛いって罪だよね。緑川くんみたいな弟がほしかったなと今更ながら思う。



「でもちょっともったいなかったかな」



ウインクをして見せた緑川くんのあまりの可愛さに我慢できずぎゅっと抱きしめたかと思ったのもつかの間で、隣にいた涼野くんに表情一つ崩さず引き剥がされた。



「緑川」

「ヒロ、ト?」

「ちょっとあっちでお話しようか」

「……え?」



「こんなとこおったん?探したんやで?」

「ごめん、ごめん」

「ほな行こか」

「そうだね」

「こんなとこで1人で何しよったん?」

「え?1人?」

「誰もおらんやん」

「あれー?おっかしいなあ」

「春菜正門で待ちよるで」

「じゃあ、早く行かないと」



春菜ちゃんはB組で、赤メガネが特徴的な明るくとても可愛らしい女の子だった。サッカー部に縁があるなあとしみじみと思う。中学の頃から交流を深めておけばよかったとちょっと後悔。帰宅部として大活躍してたあの年月がちょっと恨めしかった。




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