01
無事、私も2年生になることができました。毎年恒例の正門を抜けてすぐの掲示板に貼られたクラス発表の紙。人、人、人。人の山。どうにか見えないかなとぴょんぴょん飛び跳ねてみるけど見えない。もう一度と地を蹴り上げた私の背中をとんっと誰かが押した。
「なんしとるん?」
「え?あ、リカ!」
振り向けば厚めの化粧を施した大阪出身の友人のリカが笑顔で立っていた。リカは去年同じクラスだった塔子ちゃんを通じて仲良くなった。高いテンションに振り回されることも多々あるけど、それもそれで楽しいし、私はリカと仲良くなれてよかったなって本当にそう思っている。
「ああそや!うちら一緒やで!」
「え?それほんと?」
「ほんまや!今さっき見てきたんや」
「うわー、嬉しいな」
リカの手をとる。今年一年よろしくね!掴んだ手をぶんぶんと振ればリカも振り返してくれた。
ラッキー。友達がいた。いるといないのとではやっぱり違う。リカがいるならこれから楽しくなりそうだ。
「リカ、他に誰がいるかわかる?」
「えーっと確か、」
「今年も一緒だね、名前ちゃん」
「あ、基山くんと南雲くんと涼野くん、おはよー」
「俺たちは違えんだけどな。俺と」
「私はC組みだ」
「てめ風介!俺のセリフ奪ってんじゃねーよ!」
「ふん」
「仲いいね」
「「どこがだ!」」
「ほら、仲いいじゃん」
「名字、一度眼科にいくといいよ」
笑顔で話しかけてきたのは去年も同じクラスだった基山くんと、基山くんの幼馴染の涼野くんと南雲くん。でも今だって一緒にいるし、なんて続けようとした言葉は誰かの手に口を押さえれて阻まれた。リカだった。
基山くんはくすくすと笑いながらしーっと唇に人差し指をあて、ジェスチャー。イケメンやなー、思ったことが口に出たのかと思ったがこれもリカだった。
絵になるなあー、惚けるリカにあんたにはイチノセくん?だっけかがいるでしょ!と耳打てばダーリンは別格や!なんて。イチノセくんが一体どういった人かわからない私はイチノセくんに興味が募るばかり。どんな人なんだろう。リカのダーリンは。
イケメンはイケメンなんや!目の保養にはちょうどええ!鼻息荒く、リカは基山くんたち三人をぽうっと眺め始めるもんだからため息しか漏れなかった。
「俺らCだから、」
「クラス隣だな」
「だからセリフとるなって言ってるだろ!」
「早くしゃべらない貴様が悪い」
「なんだと?てめえ、こら」
「……おーい2人とも」
「ほっとけばいいよ」
「ああ、そうだ基山くん」
「なに?」
「私たち何組かわかる?」
「僕たちはB組だよ」
基山くんのではない声に振り向くとニコニコした吹雪くんが私たちの元へと笑みを崩さずやってきた。吹雪くんもまた幼馴染の染岡竜吾を通じてちょくちょく話す関係になった。仲がいいかと訊かれれば微妙なラインなんだよね。
「今年は同じクラスだね、名前ちゃん」
「うん、よろしくね」
「基山くんも同じなんだよね、よろしく」
「うん、よろしく」
今年は大変なことになりそうやなあ、と呟くリカにうんうんと頷く。女の子たちで煩くなりそうだ。リカはどこか楽しそうだったけど。基山くんも吹雪くんもサッカー部で、いや、南雲くんや涼野くん、塔子ちゃんやリカもサッカー部なんだけど、うちのサッカー部は結構人気がある。その中でも基山くんと吹雪くんは特に人気のある部類に入るんじゃないだろうか。
「来年も同じクラスになれたらいいね」
「気が早いよ、吹雪くん」
「ふふふふ」
「うん、でもそうだね」
私たちは各々の教室に向かう。ええ気分やなあ、基山くんか吹雪くんははたまた南雲くんか涼野くんか。特に基山くんと吹雪くんにはファンが多い。うらやましげな女の子の視線に、なぜかリカが得意げに鼻を鳴らしていた。
「今年の1年、どんなんなんやろなあ」
「ああそうそう、緑川はここに入ってくるよ」
「緑川、ってあのポニーテールの子やろ?」
「緑川?ポニーテール?」
「そっか、名前ちゃんは会ったことなかったよね」
「どんな子なの?」
「うーん、面白いヤツだね。まあ、会ったらわかると思うよ」
「それもそうだね、焦らず楽しみにしておくよ」
「期待通りにはいかないかもしれないけどね」
またね、南雲くんと涼野くんと別れて私たち4人はBと書かれた教室に入り、黒板に貼られた座席表に従い新しい自分席へと荷物を置く。みんな思ったよりもバラけてしまっている。
「残念だね、浦部さんと席離れちゃって」
「うーん、でも席替えがあるでしょ。吹雪くんはどこの席?」
「僕は一番後ろだよ」
「へー、いいなー」
「この席、名前ちゃんがよく見えるよね」
「……え?」
「冗談だよ、ふふふ」
「……ははは」
あんたらはよせんと遅れるで!まだ教室に残っていた私たちにリカの少し焦った声がかかる。初日から遅刻だなんて考えたくもない。待っていてくれたリカと基山くん、そして吹雪くんと連れ立って体育館までの道のりを駆けた。期待に胸が膨らんだ。
「おはよー」
「おはよ」
サッカーの話題で盛り上がる円堂くんの輪に入る。相変わらず円堂くんはサッカーサッカーサッカー。秋ちゃんと夏未ちゃんと冬花ちゃんの背中を頑張れと押せば3人とも真っ赤になった。可愛いなあ、もう。円堂くんがちょっとうらやましい。こんな可愛い子3人に好かれるなんて。早く気付いてあげて、と願わずにはいられなかった。
「そういや名字は何組だったんだ?」
「Cだったよ」
「メンバーは?」
隣にいた風丸くんに話しかけられた。私も雷門中に通ってたこともあり、雷門中出身者とは大体馴染みがある。FFIとかいうサッカーの世界大会でみごと優勝したつわものだ。基山くんや吹雪くんも出ていたらしいが雷門サッカー部の知り合いしか気にして観戦してなかったから記憶にほとんどなかったりする。観始めたのイギリス戦からだし。ちょくちょく観れなかった試合もあったし。なんかほんと申し訳ない。
ざっとメンバーをあげると苦労しそうだな、と風丸くんは苦笑い。代わろうか?と冗談で持ちかければ案の定遠慮された。