バクバクバク
怖い夢を見た。内容は全く覚えていない。起きると同時に忘れてしまった。けれど、怖い夢を確かに見た。どくどくどくどく。心臓が痛くて苦しくてポロリと涙がこぼれ落ちそうになった。どくどくどく。未だ鳴り止まない心音と増していく苦しみ。息ができない。息がつっかえる。暑くもないのに汗が伝う。冷たい汗が伝う。はっはっはっはっ。やっと息ができるようになったかと思うも、荒い。必死になって整えようとするも切れ切れにしか呼吸できない。握り締められた手で額の汗を拭った。すーはーと目を閉じ心臓のあるあたりに手をあて大きく息を吸い込む。指先から掌から熱が伝う。ぎゅっと握りしめればどくりと心臓が鳴いた。
「ヒロ、ト?」 「……起こしちゃった、かな?」 「それは構わないんだけど……、凄い汗」
寝起きのゆいちゃんの指先がこめかみの汗を拭って離れていった。嫌な夢でも見たの?内容は、覚えてないんだけど。心臓のどくどくは多少なりとも収まりつつあった。俺はなんの夢を見ていたんだろう。必死に呻きもがいていたことだけはわかる。体が重くダルい。布団に潜り込み枕に顔をうずめた。泣いてるの?ぽんぽんとあやすように優しく俺の頭を撫でるゆいちゃん。頬を撫でてみたけど涙が漏れた痕跡はなかった。たまっていた、つっかえていたもやもやと霧がかっていたいた胸のなにかがすうっと波が引くように消えていく。変わりにさっきとは違うどくどくが広がった。
「ゆいちゃんゆいちゃん、ありがとう」 「?」 「なんでもないよ」 「気になるんですけど」
枕に顔をうずめたままだから声はくぐもっていた。恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい。たかが夢ごときの突拍子のない不安に怯えて。ああ、恥ずかしい。カッコ悪い。あああっ、とじたばたと足を動かせば今度はなに?と驚いた声をあげる。俺カッコ悪いよね、呟けばゆいちゃんはヒロトは十分にカッコいいよと笑ってくれた。表情は見えなかったけど声は笑っていたように思う。
「水とか、飲む?」 「いや、いいよ」 「そう?」 「一つ、お願いがあるんだけどさ」 「うん」 「手をさ、繋いでもいいかな」 「お安い御用さ」
ヒロトの手、冷たくなってる。ならゆいちゃんが温めてよ。仕方ないなあ。ぽかぽかとした温もりに包まれる。つついたら破れてしまいそうな温もり。真綿でくるまれたようなそれは俺から嫌な気分を取り去ってくれた。心臓がむず痒くてでも嬉しくて。えへへと笑みがこぼれた。
「ゆいちゃん、好きだよ」 「……いいからほらさっさと寝る!」
ゆいちゃんの声には焦りが見え隠れ。かくれんぼは俺の勝ちみたいだ。再び眠りに堕ちるか堕ちないかの瀬戸際に声が聞こえた気がした。私も好きよ、ってさ。これできっと夢見はよくなるはずだ。
!!!!! なんだか途中でわからなくなった作品。ヒロト好きよ。夢なんてなかなか見やしないぜ……!タイトルは怖い夢見たときのおまじないより。やったことないけど。
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