宝の地図





「ゆいちゃんの宝物ってなに?」
「私の?そーだなあ、うーん、わかんないなあ」
「……」
「ヒロト?」
「……」
「ちょっと急になに?」
「……」
「おーいヒロトくぅーん?」
「……わかんないならいいよ」


私のクラスにきたかと思えば宝物について突然に尋ねててきた、目の前の男は一応私の彼氏という立ち位置についている基山ヒロトだった。普段考えもしないことをきかれ、返答に困り果てる。いきなり言われたってぱっと思いつく筈がないじゃないか。私の返事に明らかに不満大有りですよ、とムスッとした表情を浮かべたかと思えば、さっさと去っていってしまった。どうしてそれを尋ねるに至ったか、その由をヒロトに確認するヒマはもちろん、存在しなかった。宝物、宝物、宝物?改めてヒロトの声をリピートさせながら脳細胞を働かせるも、これといった宝物らしき宝物は思いつかない。大切にしているものはあるが宝物かと言われれば違う。頭を捻り私の考える宝物を必死になって部屋にある大切なものたちと共に記憶の水底から浮かびあげようとするも、やっぱり見つかりはしない。ヒロトは私になんて答えてもらいたかったんだろう。さっぱりわからない。ヒロトの去り際の表情はなにかが不服と書いていたが、それがなにかまでは想像がつかなかった。らしくないヒロトの考えがわからなかった。





「うーん」


黒板を写す手を止め、大きな溜め息を一つ吐く。思ったよりも深いそれは私のヒロトのせいで散漫していた授業への集中力を奪っていった。くるくるとシャーペンを回す。それが床にカツンと音を立てると程なくして静かな水面にぼちゃんと似つかわしくない不浄な石を投げ込まれたかのようにざわざわと胸の辺りがざわめきたった。ないとは思うが万が一の場合もないとは言い切れない。嫌な方向に考えてしまう。一度不安に支配されてしまえばその不安要因を取り除かない限りずっとそれに支配され続けてしまう。今、すぐにでも飛び出してヒロトのもとに行きたい衝動に駆られるが授業中という理由でぐっと我慢する。不安で破裂してしまいそうだった。いつもなら短いと感じる授業がとてつもなく長いと感じる。一分一秒が、長い。早く終われ早く終われと心で念じながらそわそわと落ち着かないまま、内容なんて頭に入るはずもなく授業はやっと終了した。


授業終了の合図と共に私は教室を飛び出す。向かうのはヒロトのいるであろう、教室。案の定ヒロトはそこで女の子に囲まれて談笑していた。私を見つけるとヒロトはごめんね、と女の子の集団を掻き分けて私のもとへとやってくる。場所、変えようかとヒロトの一歩後ろをついていく。別の感情による別の理由によって、心臓は大きく動かされていた。ヒロトの背中が、遠い。空気が思い。居心地が悪い。私たちのまわりだけ澱んだ空気が漂っていた。雰囲気のよくないまま、空き教室へと私たちは入っていく。ピシャリと締め切られた戸が気まずさを助長したかに感じた。どくりどくりと嫌な心音がやかましい。結局ヒロトの真意ま見いだせなかった。どうしよう、とキョロキョロと視点を定めることが出来ないまま1メートルほど間隔をとって私たちは向き合う形をとる。ヒロトの顔をどうしても直視することができず、ヒロトの襟元辺りを見つめることにした。うるさい廊下と打って変わって会話のない私たち。休み時間が終わろうと、それは変わらなかった。生まれてはじめて、授業をサボることとなった。


「ゆいちゃんはさ、俺のこと好き?」
「うん、好きよ?」
「ほんとに?」
「嘘言ってどうすんの。ヒロトは好きだって嘘ついて欲しかったの?」
「いや、違う」
「だいたい嫌いなら付き合わないし」
「だよね、ごめん」


なにかあったの?との私の言葉への返事はなく、ヒロトは置いてある机に座る。ちょいちょいと手招きされ、近付くと腰の辺りに腕を回されて、最近ちょっと気になるお腹に顔をうずめられた。つやりと天使の輪の光る髪の毛をすく。髪色の割りに痛みは少なく、むしろ殆ど見受けられずちょっとだけ、いやかなり嫉妬した。なんで痛んでないんだよ!


「ヒロト髪綺麗だねーさらさらしてる」
「そう?」
「毎日手入れとかしてるの?」
「特にはしてないけど」
「なんか狡い」


柔軟剤変えた?とヒロトはわざとらしい呼吸を繰り返しぐりぐりと鼻を擦り付ける。ちょっとくすぐたかった。ゆいちゃんの匂いで一杯だー、なんて発言を繰り返すヒロトにはさっきの纏っていた重い雰囲気など微塵も感じなかった。いるのはまるでなにごともなかったかのようないつものヒロト。


「で、なんで機嫌悪かったの?」
「それ訊いちゃう?」
「いやいやなっとくいかないし」


雰囲気がせっかく和らいだところにあれだが、うやむやになりそうだものをわざわざ掘り返し、ヒロトの説明を待った。


「女の子たちと宝物はなに?って話になったんだけどさ。ああ、もちろん俺は胸を張ってゆいちゃん、って言っておいたからね」
「なんつー恥ずかしいことを。あんたのクラス行きにくくなっちゃったじゃん」
「え、なんで!」
「だから恥ずかしいからだっての」
「だって事実だしさ。まあ、そんな話をして盛り上がっていたときにさ、晴矢のやつがさ、『それ思ってんのお前だけじゃね?だってアイツ、お前が他の女と仲良くしててもしれっとしてるし、お前が思ってるほど愛されてないんじゃねーの?』なんて言い放ったからさ」
「気になった、と」
「そう。それなのにゆいちゃんってば」
「ごめん、そういうつもりは全くなかったんだ」
「俺はゆいちゃんの宝物になれてる?」
「……なれてるよ」


じゃあなんで俺が他の女の子といても平気そうなの?いや、それはと返答に詰まった。いやだって友達付き合いまで束縛されるの嫌でしょ?そんなことないよ!でも私が嫌なの。ねえ俺のことどれくらい好き?ベタに宇宙一とでも言っておこうか?嘘じゃないよね?顔をあげようとしたヒロトを押さえつけた。あながち間違えではない。が、しかし凄く恥ずかしい。好きなんてヒロトみたいに日常的にそうそう言えるもんじゃない。私の気持ちも汲み取ってくれ。私はヒロトが誰よりもなによりも一番好きよ、精一杯の気持ちを声にして絞り出した。ちょっと震えた気がしたけどしょうがないじゃない。ゆいちゃん!なんて抱き締めてきたヒロトにつぶされるかと思った。



―……なにしてんの、ヒロト。
―え?おしり触ってる。
―誰の?
―やだなあ、ゆいちゃんしかいないじゃん。
―な ん で!
―そこにおしりがあるから?
―なら他の子にしてろ。
―ゆいちゃんだからなのに!なんでわかってくれないの?
―悪いけど全然嬉しくないや。
―俺のも触っていいよ?
―全力で遠慮する。





!!!!!
どうしてこうなった。ヒロトがちょっと変態ちっくになってしまわないよう尽くしてたのに!ヒロトは甘えただとすげー可愛いと思う。これは甘えてるかどうか不明だけど(笑)晴矢が友情出演。




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