「隣、いいかな?」
声の方向に目を向ければぴょこんと両サイドを跳ねさせた特徴的な赤髪で切れ長の吸い込まれてしまいそうな瞳を持つ、同じクラスでそれなりに仲の良いサッカー部のエース、その整った容姿と人柄の良さから男女問わず憧れ慕われる男の子、基山ヒロトくんがいた。
雨傘
私はバス通学だ。いつもの定位置、窓際一番後ろの座席に腰を下ろす。そこから学校近くのバス停の時間を外の景色をぼうっと眺めながら過ごすのが私の日課になりつつあった。例えば同じ制服を身に纏い友人たちと楽しそうにおしゃべりしながら通学している生徒たちや、疲れが抜けきれていないサラリーマンたちの通勤やら。それらがすっと通り過ぎていく中で私はバスの妙に心地良い振動を感じ、身を投じている。しかし、今日は生憎の空模様。空は灰色というより鉛色をしていて今にも泣き出してしまいそうだ。一応、カバンの中に突然降られても大丈夫なように折り畳み傘を常備している。どうやら今日、使うことになりそうだ。
「隣、いいかな?」
話しかけてきたのは基山くんだった。基山くんの手には燃えるように赤い基山くんの髪色に良く似た、赤い折り畳み傘が握られている。
「見て、色違い」 「あ、本当。ゆいちゃんのは黄色なんだね」 「基山くんはやっぱり赤なんだね」 「やっぱりって何?」 「いや、なんか基山くんらしくて」 「俺、らしい?」 「私の中で赤は基山くんなんだよね」 「……そっか」 「なんか嬉しそうだね」 「晴矢は?晴矢も赤って感じじゃない?」 「南雲くん?んー、私あんまり南雲くんと仲良くないからなあ、よくわかんない」 「あ、そうなの?」 「うん。同じクラスになったことないし話したこともないよ」
でも折り畳み傘ってあると便利だよね、といつの間にかちゃっかりと隣に座り、笑いかけてきた基山くんに、いざって時に役に立つよねと笑い返しておいた。
「基山くんがバス、って珍しいね」 「天気予報が雨のときはいつもバスだよ」 「でも会わないよね」 「いつもはもう一本遅いのに乗ってるからね」 「じゃあ、今日は早いんだ」 「うん、でもゆいちゃんがいるならこの時間帯に変えようかな」 「えーじゃあ、私は一本遅いのにしようかな。嘘だけど」
基山くんがこうだから女の子が勘違いしちゃうんだろうなとふと思った。そういえば私の友達の友達に基山くんに告白して玉砕した子がいったけなあ。他校の友達にも基山くんのことが好きだって言ってた子がいたっけなあ。あ、睫毛ばっさっばさで長いなー。鼻筋もすっと綺麗だし。一つ一つのパーツに無駄がないよね。いいなー。うらやましいなー。
「そんなに見つめられると、恥ずかしいんだけどな」
どうやら私は基山くんの顔を凝視し過ぎていたらしい。ほんのりと頬を染める基山くんの照れた声で我に返った。今の胸中を一言で表せば可愛らしい。なにがと聞かれれば基山くんが、だ。はにかむ基山くんにきゅんときた。うん、基山くんの可愛いところが好きだと言っていた隣のクラスの山田さんの言葉の意味がわかった様な気がする。性格もいいしね。
「私、基山くんのこと好きだわ」 「えええっ?」 「なに?そんなに驚かなくてもいいじゃん」 「いや、うん、でも、深い意味はないんだろ?」 「うん。なんかふとそう思ってさ」
病的に白い基山くんの顔が真っ赤になったと同時にバスの揺れが止まる。
「・・・・・・俺、ゆいちゃんのこと好きかも」 「えええっ?」 「なに?そんなに驚くことないんじゃない?さっきのお返し」 「深い意味はないんでしょ?」 「うーん、多分ね」
今度は私が赤くなる番だった。してやったり、にやりと笑う基山くんの顔にそう書いてあった、ような気がする。冗談だとわかってはいるものの基山くんに言われたからか、ものすごく恥ずかしかった。
!!!!! 私の中での基山は可愛い子。変態とかもおいしいとはおもうがやっぱり可愛いんだー、基山。途中緑川でもいいような気もしてきたが、ここは基山で。緑川可愛いよ!でも基山も可愛いよ!ちなみに朝。
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