Je n'en ai pas envie.



ゆいが今日用事があるから掃除当番代わってくれないかなと話しかけてきたと同時に背後からぞわりとした視線が送られてくるのがわかる。ぶるりと背筋が震えてだらだらと冷や汗が流れる。なんだこれ。俺がなにをしたっていうんだ。いや理由はわかりきっているけれども納得はいってない。じっとりと汗によって湿った手をゆいががとった。大体なんで俺に頼むんだよ!他のヤツにしてくれよ!ありがとう、染岡くん!にこっと笑ったゆい。あ、可愛い。じゃなくて!背中が感じる某お二方の視線がじりじりぐりぐりとと背中をえぐっていく。やばいぞ。これはやばいぞ。だれだよ俺をこのクラスに入れたの!別に嫌なわけじゃないけどせめてあいつらのどちらか片一方と離してくれたってかまやしねーはずなのにどうしてこうなるんだよ!がつん、後頭部がそれはもう鋭い痛みを発した。窪んではいないだろうか。ころころと足元に転がっていたのは誰かのスティックのり。誰が投げたかなんてええもうわかりきってますよ!痛む頭部をさすりながらぎぎぎと首を軋ませれば視界には予想通りの人。にこにこにこにこ。不自然な笑顔が向けられる。ごめん手が滑っちゃった!星が語尾についているのではないかと思わしき声をあげたのはFW兼DFの王子との呼び声が高い吹雪士郎。どうやったら狙いすましたかのようにこの間ぶつけてたんこぶができた箇所に偶然のりが飛んでくるんだよ。調子のんじゃねぇぞコラァ吹雪の顔にはそう書いている。ごめんね、吹雪の誠意の感じられない謝罪の副音声として誰の許可なく触れてんだよと聞こえてくるのは気のせいなんかじゃないはず。吹雪の隣で基山が笑いをこらえているのがわかる。基山もまたなんだかよくわからないがヘンにモテる男だ。基山、わざとらしく口元を覆い隠さなくたって肩が震えてんだよ肩が!その咳がわざとだって俺は知ってんだよ!こいつら嫌だ。どんくらい嫌かって言えば二度と顔も見たくないくらい嫌だ。同じクラスになってしまったからにはそうもいかないんだけど。サッカーをしている際のあいつらは嫌いじゃない。上手いし、真剣だ。ただ、ゆいに関しては、なあ。本人らは至って真剣なんだろうけど。

凄い汗だけど大丈夫?体調悪いなら保健室いく?ゆいが顔を覗き込んできた。うわああああああああああ!や、や、ややめろ!ちちち、近い!ダメだ!た、頼むから俺に構わないでくれ!背後から不穏な空気が漂ってくるのがわかる。ゆいが悪いわけじゃないってことはわかってる。ゆいはいいヤツだ。だけど。ゆいに好意を寄せるヤツらが一癖あるやつばかりなんだよなあ。ゆいもゆいで大変だな。なんて考えている場合ではない。お、俺は平気だ!ゆいと距離をとった。チャイムがなった。と、とりあえず一安心、なんて考えた俺がバカだったのかもしれない。

コツンと消しゴムのカケラが一粒頭部に当たったのを皮きりにどんどんと俺の頭は消しゴムの攻撃を喰らう。なんであいつらが俺よりも後ろになるんだよ。パラパラとノートの上に落ちてくる消しゴムのカケラ。半分ほどの大きさの消しゴムが直撃した。それも丁度たんこぶにピンポイントで。ごめん手が滑って、今度は基山が口パクでニヤニヤしながら伝えてきた。ちらりと吹雪を見れば机に伏せって咳をしながら足をバタバタさせていた。だから咳がわざとだってわかってんだよ!吹雪に先ほどの仕返しも兼ねて思いきりぶつけてやろうと投げかえすも顔をうずめてるくせになんなくキャッチ。にこり。吹雪が笑った。たらりと汗が背中を伝う。嫌な予感がしたかと思うと消しゴムが俺の鼻をとらえた。ガツン。ちくしょうなんて威力だ。消しゴムが出せる威力を超越してやがる。にやり、吹雪のしてやったり顔が非常にかんに障った。基山は咳払いしていやがった。消しゴムのカケラは授業が終わるまで投げ続けられた。俺の周りは消しゴムのカスだらけ。お前らなんでそんなに消しゴムがあるんだよ。もうイジメの域じゃないのか、これ。

放課後になった。あーあ、掃除当番が回ってくるの楽しみにしてたのになー、聞こえるようにもらす基山の声を無視する。掃除当番、何人かでグループを作り、交代で放課後に教室の清掃を行っている。ちなみに人数は三人から五人。ゆいと基山と吹雪の丁度三人。今は俺と基山と吹雪とだけど。吹雪にしろ基山にしろゆいちゃんがいないとやる気がでない、なんて、吹雪がゆいの椅子に座り基山がゆいの机に座り二人仲良くぶーぶーと文句だけ一人前にたれてやがる。掃除しろと怒鳴っても聞いちゃいない。もう一度ガツンと言ってやろうと息を吸い込んだらガラリと教室のドアが開く音がして、視線を移せばゆいがいた。がばり、今まで箒すらもっていなかったはずの基山と吹雪はゆいの姿を確認するやいなやいつの間にか箒を片手にゆいに飛びついていった。さみしかったよ、ゆいちゃん!と基山。染岡くんがねー、ちゃんと掃除してくれなかったんだよと吹雪。俺が集めたそれを指差してさも自分が集めましたよなんて顔を浮かべるあまりのふてぶてしさに、唖然。染岡くんはそんな人じゃないよー、庇ってくれるのはありがたいがと苦笑いを返せばちょっとからかってみただけだよと笑う吹雪が怖かったのと基山の手から 滑 っ た ラーフルが俺の顔面をとらえたのは同時。なんだか俺の手今日は滑りやすいみたい、染岡くん、悪いこと言わないから帰った方がいいんじゃない?基山の副音声が届いた。俺たちの邪魔をするな、さっさと帰れ。……教科書の入ってない軽いバッグを手に取った。バイバイ染岡くん。基山と吹雪の声が示し合わせたかのように綺麗にハモる。ため息がもれた。顔、洗ったほうがいいよ。基山が言う。……どうやらゆいの用事はつけばもう済んでいたらしい。なぜわかるか。ゆいがそう言うのが聞こえてきたから。じゃあな、教室をでる際に見てしまった。吹雪がわざとらしく声をあげてごみ箱をひっくり返したり、基山がバケツの水をこぼしたり。見てわかる。あいつらは故意にやっているんだ。もー、またあ?ゆいの言葉の意味的にも一度や二度のことではないのであろう。ゆいもご苦労なこった。ちらり、振り返れば必要以上にべたべたとゆいにくっついてる二人がいた。とんだ災難だちくしょう。





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染岡くんをいじめすぎた。タイトルはフランス語。



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