「僕の好きな人、知りたい?」

「え……?」

「しょうがないからゆいちゃんにだけ教えてあげようかな」





朝の挨拶推進委員会




吹雪くんと私は朝の挨拶運動を目的とする委員に選ばれてしまった。いや、吹雪くんは立候補か。とにかくこの委員は仕事数は少ないが、朝が早いことが欠点である。ふあああ、なんて欠伸をかみ殺しておはようございますと笑顔で元気に声をかけなくてはならない。おはようございますと私たちが一生懸命になったっておはようございますとの一言を返してくれない場合もある。それはちょっとだけ悲しいことだ。だから私は元気に、とまではいかないけれどちゃんと挨拶をするよう心がけはじめた。

基本的にもう一人のクラスで選ばれた委員の子とそれに参加しなければならない。今日の担当は私と同じクラス、同じ委員の吹雪くんだ。吹雪くんがいるとすごい。なにがすごいのか。とりあえずすごいのだ、女の子たちが。


「おはようございます」

『おはようございまーす』


きゃーっと黄色い声があがる。またか、と声の方向を見れば絡まれてちょっと困り顔の吹雪くんがいた。吹雪くんは整った顔に人当たりのよさが幸いなのか、今は災いに近いだろうが、こういった状況は珍しくもなんともない。それでも邪険に扱わないのが吹雪くんの優しさかもしれない。私もあんな風にモテてみたいなあ、なんてぼうっとしてたらポンと肩に手を置かれて我に返った。


「大丈夫?」

「へ?」

「いやさっきから声かけてるのに返事ないから、」

「ああ、ごめん」

「どうしたの?体調でも、悪いの?」

「違う違う、全然へーきだから!」


いつのまにやってきたのだろう。全く気付かなかった。心配しないで、と手をふってみせれば吹雪くんはそう?なんて言いつつも納得はしてない様子。ちょっと考えごとしてたから、笑って見せれば、吹雪くんも安心したような表情に変わった。


「じゃあ帰ろっか」

「えっ、もう?」

「なに?もっと僕と一緒にいたかったとか?」

「あ、いや別に」

「なんてね、冗談だよ」


挨拶するために立っていた場所から教室までの距離を私は吹雪くんと連れ立って歩く。僅かな距離なのにこれが羨ましいと感じる女子も多いらしい。ならば変わってくれよ、なんて心の中で呟くもそれができないから困っているのだ。吹雪くんの隣にいるといい意味でも悪い意味でも目立つ。吹雪くんに責任がないことは知っている。むしろ吹雪くんもある意味被害者なのかもしれない。


「わーお!いつ見てもすごいな、」

「見てないでさ、よかったら手伝ってくれない?」

「了解」


カタン、バサバサ。なにから発せられた音かと言えば吹雪くんの靴箱から大量ねお手紙類が飛び出して散らばる音。溜め息をつきながら拾い集める吹雪くんの足元に散らばる手紙に私も手を伸ばした。


「相変わらずすごいね、これどうしてるの?」

「一応読んで、断ってる」

「ちゃんと読むんだ」

「ゆいちゃんは?」

「モテなくてすみませんね!」

「じゃあ好きな人とかは?告白したりとかしないの?」

「残念ながらそんな相手いませんよ」


私と吹雪くんとの差という現実になんだか少し絶望しそうだ。いいや私が普通であって、吹雪くんが普通でないのだ。異常なんだ、きっと、絶対。最後の手紙に手を伸ばそうとしたその手を阻まれた。言わずもがな吹雪くんである。そして最初のセリフへと戻る。ききたい、知りたい、教えて、どのセリフも私は口にしてなどいないはずなのに吹雪くんは話しはじめた。


「朝の挨拶運動みたいなめんどくさいものに僕がわざわざ立候補した意味がわかったら、それが答えだね」


ああそう言えば自分から立候補してたなあ、なんてその時の様子を思い出す。自意識過剰だと言われてもおかしくないような言葉が頭に浮かんだがさすがにそれは、と考え直すことにした。が、なかなか見つからない。


「なんか思いついた?」

「1つ。でも、」

「でも?」

「ちょっと、いやかなり自意識過剰っぽい答えしか」


吹雪くんが手紙が入ったカバンを肩にかけて、立ち上がった。私も同じくしゃがみ込んでいた身体を立ち上がらせる。


「多分ゆいちゃんの考え、正解だと思うよ」


不意に腕を掴まれた。


「え、ちょ、ちょっと、」


引っ張られた。


「1限はサボろうか」


そのままぐいぐいと引きずられるようにどこかへ向かって引っ張られていく。どこいくの?どこが見つからないと思う?サボったことないからわかんない、とりあえず屋上にでもう行こうか。しかし屋上は鍵がかかって入ることなどとうていできやしない。その由を吹雪くんに伝えれば、吹雪くんはちょっと開けたスペースがあるんだよと教えてくれた。

そこは少し埃っぽかった。ちゃんと掃除してもらわないと困るね、埃を払いのけ吹雪くんが階段に腰掛けた時、1限の始まりのチャイムがなる。ここ座りなよ、指さされたのは吹雪くんの隣。躊躇いはあったものの、そこに腰掛ける。吹雪くんはいつのまにか手紙の開封作業に移っていたもののしっかりと話しかけてくる。で、どんな答えが出たの?吹雪くんは6通目に目を通しているところだった。


「それって私が関係してたりする?」

「うん、するね」

「……」

「で?」

「……言わなきゃダメ?」

「うん、ダメだね」

「すごく恥ずかしいんだけど」

「まあ多分正解だろうし、言うだけ言ってみたら?」


ほら、吹雪くんは私の言葉を促す。なにこれ。なんのプレイ?なんで私がこんなに緊張してどぎまぎして羞恥を感じなくてはならないんだろう。


「じゃあ、まず僕が立候補した理由は?」

「私が選ばれてたから」

「そうだね、ゆいちゃんと一緒にいたかったからだね」

「……!」

「じゃあ次は、んーと、どうしてゆいちゃんと一緒が良かったんだと思う?」

「……勘弁してよ」

「いやだよ。ほらなんでだと思う?」


ニヤニヤを抑えきれていない吹雪くんの整った顔が覗きこんでくる。わかった、言うから!楽しいね、なんて笑みを浮かべる吹雪くん。私は全然楽しくないんだけど。


「それは、」

「それは?」

「吹雪くんが」

「僕が?」

「私を、その、えっと」

「ゆいちゃんを?」

「いや、あ、す、」

「す?」

「……吹雪くんって意地悪だよね」

「そうだね、ゆいちゃんにだけだけどね。どうして僕はゆいちゃんを特別視するんだと思う?」

「いやだから、私に、気が、ある、から?」

「うん、そうだね、僕はゆいちゃんが好きだね」


さらりと言いのけられてさっきまでの私がバカらしく思えてくる。脱力した。大きすぎる溜め息がもれた。すっかり熱くなってしまった身体を少しでも冷やそうとパタパタと手を使って扇ぐもなかなか冷えやしない。むしろ、隣からじっとこちらの様子を窺う視線を感じて熱がじわじわと集まってくる。ちらりと吹雪くんに視線を移せばばちりと交わった。


「ト、トイレ行ってきまーす」


逃げ出そうと立ち上がるも腕をとられて未遂に終わる。ゆいちゃんの考えなんて読めてるよ、再び隣に座らされた。


「ゆいちゃん、」

「な、なにかな」

「僕の好きな人はゆいちゃんだよ」


にっこり。吹雪くんの笑顔に溶かされるかと思った。絶賛、不整脈中です。頬を引っ張ってみたけどどうやら夢ではないみたいです。抱きしめていい?返事をする前に私は抱き締められていた。僕と付き合ってね、なんだか拒否権はなさそうです。





!!!!!
なんだか無駄に長くてグダグダしてるよ。普通の吹雪が書きたかったんだよ!



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