「あの、ちょっといいですか?」



基山ヒロトに話しかける女の子が一人。基山にとって今自分に話しかけている少女は名前も知らない相手。知っていることといえば制服からわかる女子校の生徒だということと学校へいくためにのるバスで毎朝見かける顔だということ。告白かな、基山は思う。似たようなシーンを基山は幾度となく経験してきた。その度にやんわりと断りを入れているのだが。基山は少女を見た。少女はがさがさとカバンを探る。ちらりと見える可愛らしいカバンの中身に基山の頬は少し緩む。彼女のことを基山は嫌いではなく、むしろ最近の興味の対象でもあった。



「これ、」



差し出された一枚の封筒を基山は受け取った。そのことを確認し、じゃあ、とさっさとその場をあとにしようとする少女を基山は待って、と呼び止める。なんですか?少女は足を止めた。



「これ、君から?」

「あ、いえ、違います」



基山ヒロトさんへそう書かれている表面と見慣れない名前の記されている裏面とを交互に見比べていると少女は困ったような表情を浮かべた。それ友人からなんですよ、そう手紙を指差して話す彼女に基山はなるほどと相槌をうつ。そしてごめんねと言っておいてと申し訳なさそうな笑みを浮かべて少女へ手紙を戻した。


「俺ね、こういったものは本人が直接渡してくることに価値があると思うんだよね。まあ基本的には受け取らないようにしてるんだけどさ。期待させちゃったら可哀想だし。それに顔、知らない場合だってあるし。どんな子かわからないのに付き合ったり仲良くしたりなんてできないからね」

「あ、そうなんですか」

「うん、そういうことだからさ、君の友人に伝えておいて」



わかりました、そう手紙を受け取りつつ、なんだかすみませんと少女は笑う。いいよ、気にしてないから、基山もそれにつられて笑みを浮かべた。



「君の名前は?」

「私ですか?」

「君以外に誰がいるの?面白いね、君」

「……。ゆいです。桜井ゆいです」

「ゆいちゃんか、」

「あなたはえっと基山、」

「ヒロトでいいよ」



すっと基山が差し出した手にゆいはきょとんとした表情を浮かべた。ほら、基山が差し出した手をぷらぷらと振る。握手しようよ、おずおずと差し出されるゆいの手を基山が勢いよくがしりと掴んだ。これからよろしくね、笑顔の基山にゆいもまた笑顔であ、はいよろしくお願いしますとこたえた。



「いつかゆいちゃんからこういった手紙を貰ってみたいなあ」



基山はゆいの手に握られた手紙を指差してさらりと言う。それって、ゆいの言葉を遮り、ね?と基山は返事を仰ぐ。……考えておきますね、うんそうしといて、やってきたバスに基山はいち早く乗り込む。その直前にゆいに耳打ったゆいちゃんからだったら受け取ったかもしれないのにね、という言葉に、ゆいの手にある友人からの基山への手紙が、きゅううっと締め付けられた。




融解車両


(な、な、なんなのあの人!)(どうしたの?ゆい、落ち着いて)(もうわけわかんない!)

(困ってる困ってる)(なにが?)(なーんでも。こっちの話だよ)(ふうん)(予想通り、からかいがいがある子だったね)(からかいがい?)(まあ半分本気)(はあ?)(緑川にはまだわからないと思うよ)(……俺のことバカにしてる?)(……ちょっとだけね)





!!!!!
緑川出演は愛。



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -