結果を知っていた


私は同じクラスでバスケ部のとある彼のことが好きだった。きっかけなんて些細なこと。ちょっとした優しさ、それがたまらなく嬉しくて気付けば眼で追って、いつしか彼に焦がれた。はじめは想いを伝える気など微塵もなかった。いつも通りの恋愛。勇気が出ずに距離が近づくことなく終了の鐘を鳴らすそんな恋愛。今回もその通りにことは進んでいくとそう決め付けていた。のに。「ほんとにそれで君はいいの?」吹雪くんの一言で変わった。吹雪くんとは同じクラスではあるが接点はほとんどなかったはず。ある日の放課後、いつものように靴箱に向かおうとした私を吹雪くんが呼びとめたのだ。
「君、アイツのことすきでしょ」
「いつも眼で追ってるでしょ」
「すごくわかりやすいよ」
「……だからなに?」
にっこり吹雪くんは手を差し出してきた。
「僕もね、好きな子がいるんだ」
「で?」
「だからさ、僕と組まない?」
馬鹿らしい。生憎私にはそのつもりはないの、吹雪くんの隣を通り過ぎる。
「へえ、できないからって逃げるんだ」
振り向けばほくそ笑む吹雪くんがいてその人を小ばかにしたような表情にカチンとくる。
「やってやろうじゃん、」
その場の勢いに乗せられそのときは喧嘩を吹っかけるような口ぶりで意思表明をしてしまったが「じゃあ、決まりだね」にやりとそう酷く楽しそうな吹雪くんの声に我に返って、後悔した。取り消すなんて今更できやしない。「じゃあね、」手を振る吹雪くんが恨めしかった。

吹雪くんは私のことはあれこれ詮索を入れてくるくせに自分のことは一切話そうとしない。ゆえに吹雪くんが誰を好きなのか、なぜ私にこの話を持ちかけてきたのか、私はなにも知らされていない。尋ねても「ちょっとね、」とか「桜井さんは知らなくていいし知る必要ないからね」とか言って流されてしまう。なら私は必要ないんじゃ?どうやらそうでもないらしい。「桜井さんは最後に重要な役割を担ってるんだから」意味がわからなかった。尋ねても「秘密だよ」と勿論のこと答えてくるはずがなかった。

「放課後、情報教室にアイツを呼び出しておいたよ」
昼休み、吹雪くんにこっそりとそう耳打ちされ飲んでいたお茶を盛大に噴き出してしまった。
「汚いね、」
吹雪くんには顔をしかめられたけれど私の反応は間違ってはいない。なにぶん急すぎる。二日、いやせめて一日前には知らせておいてほしい。心の準備とかスキンケアとかも必要となってくるというのに。その由を伝えれば「もう呼び出しちゃったし、今更可愛くなろうなんて無駄じゃない?」と鼻で笑われてしまった。……性格あまり、いや良くないよね、吹雪くんて。王子様ってどこが。なんかもうどうでも良くなってくる。呼び出しといて(不本意ながら)行かないって言うのも失礼な話だ。
「じゃあ、吹雪くんも?」
「まあそうなるね、僕のほうも順調にいってるよ」
「よかったじゃん」
「成功するかは別としてだけど」
「あれ、珍しく弱気じゃん?」
「うるさいよ、僕のことはいいから君は自分のことだけ考えてなよ」
ばちんとおでこに手加減のての字も見受けられない強烈なでこピンを喰らわされて(吹雪くんは痛がる私を見て必死に笑いを堪えていた。酷い話もあるもんだ)そして。放課になってしまった。

「ごめん、君の気持ちにはこたえられない」
結果はある程度予想してシュミレーションしてはいたものの、やはり直接となるときついものがある。
「忙しいのに時間とらせてごめんね、」
手を振って情報室を後にする彼に同じく手を振り返した。しんと静かな部屋、ぷつんと緊張の糸が解けた。はあああ、盛大にため息をついて椅子に腰掛けた。だから告白なんて嫌だったのに。カラカラ、再び情報教室の扉が開く。忘れ物でもしてとりに戻りにきたのかな、なんて考えるより早く「あれ、泣いてないや」予想外の吹雪くんが入ってきた。
「泣いてたら慰めてあげようと思ってたのになあ」
申し訳ないが今は一人にしてほしい。けど、そんな意見が吹雪くんに通用するわけもないだろうから「吹雪くんのほうはどうなったの?」とりあえず、訊いてみることにした。
「僕?僕のほうはまだだねえ」
「はあ?なにそれ」
「ちょっとね」
「じゃあ告わないの?」
「え?告うよ」
「じゃあ早くその子のとこ行かないと」
「うんそうだね」
吹雪くんは笑ってそう言いはするものの、その場から離れようとしない。
「……早く行きなよ」
「そうする前に、ちょっといいかな、桜井さん」
吹雪くんが大きく息を吸い込んだ。
「なに?」
「君のことが好きっていったらどうする?全部全部仕組んでいたとしたら?」
吐き出した。信じられない言葉に否定する言葉しか思い浮かばない。
「そんなまさか。冗談きついよ、」
「残念ながらそのまさかなんだよね。ごめんね、桜井さん」
「……最低ね」
「どうとでも。でもね、一つだけ、一つだけ言わせて言わせて欲しいことがあるんだ」
「……」
吹雪くんの眉毛がハの字に下がった。
「僕はね、君の弱さにつけこむことでしか自分の気持ちを伝えられそうになかったんだ」
俯く吹雪くん。
「……ばーか」
「そうだね馬鹿だね」
「ほんと、馬鹿だよ」
「……でも、君はもっと馬鹿だよね」
吹雪くんの口角が吊り上った。あ、あれ?さっきのはもしかしなくとも演技、ですか?



「だってさ、ありがたいことに」
「今、少なからず僕にときめいちゃってる君がいるじゃない?」





!!!!!
お題より。普通吹雪くんが書きたいのにうちの吹雪はどうしてこうも性格にちょっとした難が生じてくるんだろう。普通って難しい。練習練習。甘くは、ないなあ。



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