やみつきタブレット





パーティーの為にタキシードに着替えた基山くんはイケメンだった。本当にイケメンだった。驚くほど似合っていて驚くほどイケメンだった。とにかく、イケメンだった。もともとの容姿が整っていることも手伝ってその相乗効果の破壊力は凄まじいものだった。うまい言葉が見つからない。兎にも角にもイケメンなのだ。ぽややんとだらしなく緩んだ頬をぺしぺしと叩く。……力を込めすぎた。ちょっと痛い。勿論私も嫌だと主張したが半ば無理矢理秋ちゃんたちにみんな着るんだから、と着せられている。が、自分でいうのもアレだが着慣れないドレス姿の鏡に映る私はなんとも滑稽で笑える。はあっ、と大きな溜め息が漏れた。せめてもう少し、なんて無い物ねだりをしてもどうしようもない。はあああ、っともう一度溜め息をついた。私が皆といくことを拒否したこともあり、後から会場へと一人向かっている状況だ。秋ちゃんみたくかわいければ私も、再び溜め息がもれた。正直、乗り気じゃなかった。


会場についてからも私は皆とは合流せず、少し離れた場所から皆の様子を窺っていた。秋ちゃんとキャプテンがいないにしろ、皆それぞれ似合っていてきらきらしていた。特に基山くんは。そして本日何度目かの溜め息が漏れた時、誰かの気配を感じた。溜め息をつくと幸せが逃げますよ、イギリスの長髪の男の人に話しかけられた。えっと確かさっきまで冬花ちゃんと話していた……?どうしたんです、こんなところで一人で。なれない雰囲気に少し酔ってしまったみたいで。笑顔を作り当たり障りない会話を続ける。酔ってしまった、なんて嘘だ。本当はあの中に混ざって、基山くんにこの姿を晒す自信がないだけで。だってほら、笑われるんじゃないかって。基山くんはそんなことする人じゃないってわかってる。イナズマジャパンの皆だって。わかってる。わかってるけどどうしてもマイナスな方向に考えてしまう。



「溜め息は似合いませんよ」
「え?」
「やはり女性は笑顔が一番です」



ね?とにこりと微笑まれてうっと言葉に詰まる。そうですかと笑い返しておいたが上手く笑えていた自信は、ない。どうやら無意識にまた、溜め息をついていたらしい。なんて憂鬱なんだろう。ちらりと基山くんがいる方向に視線を移せば皆と談笑している基山くんがいた。



「あなたはあの方に好意を寄せている、みたいですね」
「ええっ?」
「見ていればわかりますよ」



クスクスと笑うイギリスの男の人、エドガーさんの言葉にぼんっと顔が熱くなる。エドガーさんは私の反応を見てやっぱり、と笑った。そう、私は基山くんが好きだ。といってもただ見ているだけで進展とかそんなものはなく距離は遠い。けど、それで良かった。ただ基山くんがサッカーを楽しそうにする姿を見ることが私は好きなんだ。下手にアクションを起こしてそれすらできなくなったら、なんて考えるとなにも出来やしない。基山くんに好意を寄せているのは私だけではないだろう。いいんだ、別に。私が基山くんが好きなことには変わりないから。基山くんがいるであろう方向に目を向けるも、基山くんの姿はなかった。……どこいったんだろう。



「気分が優れないようでしたら、」
「い、いえ、そういうわけでは、」
「なら良かった」



俯いて物思いにふける私の顔を大丈夫ですかと覗き込んできたエドガーさんの顔が思いの外近くて後ろへと飛び退けばどんと誰かにぶつかった。来てたんだね、姿が見えないから心配してたんだよ、基山くんだった。では私はこれで、エドガーさんがいなくなり、残されたのは私たち二人。



「来てたなら声をかけてくれたらいいのに」
「……それは、その」
「ん?」
「なんでも、ない」



せっかくのパーティーだから混ざればいいのに、じっと私を見つめてくる基山くんの視線から耐えきれなくなって目をそらす。そんなに力こめちゃったらドレスがシワになっちゃうよ、言われてはじめてドレスを握る手に力がこもっていることに気が付いた。



「……ゆいちゃんってさあ、」
「うん」
「俺のこと苦手?」
「……どうしてそう、」
「さっきあのイギリス人と話しているときは楽しそうだったのに」
「……それは、」
「ゆいちゃんって俺といるとき、笑わないよね」



笑わないんじゃなくて笑う余裕がないだけ、なんて言えるはずもなくもう一度きくよ?俺のこと嫌い?そう尋ねてくる基山くんにぶんぶんと頭を振って否定するしかなかった。



「似合ってるよ」
「あ、あ、ありがとう。基山くんも、似合ってる、よ?」
「そう?ありがとう。最高のほめ言葉だよ」



基山くんの笑顔を独占しているのは他ならぬ私で倒れてしまうんじゃないかってくらいに顔が熱くてくらくらする。



「パーティーは、いいの?」
「うん、ここにいるほうが落ち着くから」
「なら俺もここにいよっかな」
「え?」
「ゆいちゃんを独り占めだね」



基山くんは冗談のつもりだろうがいちいち間にうけてしまう私にとって心臓に悪すぎるその言葉は私の体温を上昇させる。火照った身体を冷やそうとパタパタと手で扇げばがしりと掴まれた。熱いね、ゆいちゃんって。それに続ける言葉が出てこない。それでも基山くんを目の前によくやったほう。こんなに話したのは初めてだ。凄く、凄く、嬉しい。



「でもよかった、」
「……?」
「俺、ずっとゆいちゃんに避けられてると思ってた」
「ちがっ、」
「でもこうして話すことができて良かったって思うよ」



そういえばさっき、あの人となに話してたの?基山くんが示す方向にいたのは冬花ちゃんと、エドガーさん。基山くんのこと話してました、なんて言えるはずがなく私は言葉を濁す。たいしたことじゃないよ、基山くんは不服そうだったが致し方ない。言えるもんか。



「でもよく、私がここにいるってわかったね、」
「ずっとゆいちゃんのことさがしてたからね」
「っ!」
「そしたら見つけたんだよ」



どきんと心臓が跳ねる。どろりと心臓が砂糖のようにとける。きっと基山くんは心配してくれてただけなんだ。そうに違いないんだ、自分に言い聞かせる。決して勘違いしないように。



「お腹空かない?」
「ううん、全然。それどころじゃない、っていうか」
「え?」
「なんでもない」
「そう?」
「うん、お腹空いたなら混ざってきてもいいんだよ?」
「俺は十分食べたし、」



それにゆいちゃんと一緒にいたいからね。……基山くんは、ずるい。そうやって私を惑わして支配して、そして最終的に基山くんのことしか考えられなくしてしまう。


エドガーさんと目が合った。エドガーさんが向けてくれた笑顔に安堵する私がいる。まずは、落ち着くんだ、私。しかしそううまいこといくわけもなく基山くんに遮られてしまった。



「……ゆいちゃんはあの人を好きになっちゃった?」
「え?いや、そんなことは、ないけど」
「ふうん、」
「だってさっき会ったばっかり、だし」
「……恋愛に時間なんて関係なんだよ、ゆいちゃん」
「でも本当にちがっ」
「そうなの?」
「そう、だよ。でもなんで、」
「なんでそんなことが気になるかって?」
「うっ」
「さあ?なんでだろうね、」



きいてみるんがはやいんじゃない?腕を引かれてぼすりと基山くんの腕の中に飛び込んだ。ほら、っと心臓の辺りに耳を近付ければどきんどきんと基山くんが生きている鼓動が伝わってきた。……それ以上に自分の心音のがうるさいけど。



「ゆいちゃん凄く熱くなってる」
「それは、」
「ねえ、きこえた?」
「うん、凄くどきんどきんいってた」
「ねえ、わかるかな」



基山くんの腕の中は凄く心地良くて私は夢を見てるんじゃないかって思えてくる。頬を抓った結果夢じゃないと理解できはしたんだけど。思考がいまいちおいつかない。



「ゆいちゃんさえよければ、なんだけどさ」
「俺とさ、」
「俺と、付き合ってくれないかな」



今なんて、きき返したのと抱き締められる腕に力がこめられたのはほぼ同時だった。





!!!!!
珍しく糖度をすこーしだけ増してみた。結果、グダグダしただけだったつれえ。しかしナイス。






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