死海/視界で溺れたよ






こつん、と窓に石かなにか、硬いものが当たる音がした。それは私が窓から顔を覗かせるまで続いた。




「もう、誰?」




誰がきたかの予想はついていたけれど一応教科書をなぞるようなマニュアル通りの対応を心がけてみる。
窓をあけると海の香りがよお、と言葉を運んできた。




「よお、じゃないでしょ、綱海」
「なあゆい、今暇か?」
「予定はないよ」
「なら行こうぜ」




パジャマのまま、私は外で待つ綱海に飛び付いた。さっき確認した時間は9時ちょっと。母さんは綱海くんとなら大丈夫ね、なんて今更のこともう言わない。
綱海はよくこうして私を誘いにくる。波が打ち寄せる音と窓ガラスが奏でる音とがその合図である。



二人してやってくるのは決まって綱海の好きな海辺。朝も昼も夜も、綱海は海にいる。綱海は海から産まれたんじゃないかってたまに思う。それに違和感は不思議とない。
夜の海はぞくりと恐ろしい。昼の海を優しいと例えるならば夜の海はなんだろう。全てを連れ去ってしまうように荒々しく禍々しい。だからこそ海は魅力的なのだろう。
綱海に寄り添うようにそっと身体を預ければ肩を抱かれた。
昼間サーフィンに勤しむ綱海が脳内で華麗に波に乗る。どの綱海も好きだけど私は好きなことに懸命な綱海が一番だ。




「ねえ綱海、こうやって目を閉じているとさ、波に混じって誰かが私を呼んでる気がするの。こう、とくんとくんって必死に私を呼んでるように」
「それは多分未来の俺たちの子だな!」
「は?」
「だから母なる海を通じてゆいに呼びかけてんじゃねーの?海って偉大だな」
「……うん、そうかもしれないね」
「だろ?」




ママ、ママ、そう聞こえなくもない。私が母親?それは一体いつになるんだろうかと遠い未来を描いてみた。俺たちの、そうなれば嬉しいけど私たちの仲は潰えてしまっている可能性もありえるじゃないか。




「でも、私たちの子供とは限らないじゃない?」
「俺以外のヤツを選ぶつもりなのか!」
「そうじゃないけど未来がどうなるかは誰にもわからないじゃん」
「いや、わかる!少なくとも俺たちの未来はわかる」




だって俺はお前を手離す気なんてこれっぽっちもねーんだからな!いっそう強く肩を抱かれた。閉じていた瞳を開けば視界がピンク色に染まる。




好きよ?照れくさそうに笑う綱海と目が合った。ああ、俺もだ。はにかむ私の唇に綱海のそれが重なった。いつものようなほんのりとした海のしょっぱい、けどほんのり甘い味。大好きな綱海の、香り。







!!!!!
私に甘いものは不可能でした。サイズがでかいのは文字数が少ないのを隠すため、とかじゃないんだからね!



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