ゆいさんの腕をぐいんと引いた。






平均台から落ちた




大きな瞳をよりいっそう大きく見開かせ、ゆいさんは俺の名前を呼ぶ。そんなのお構いなしに俺はゆいさんの腕を引く。どうしたの?とかゆいさんはいろいろと尋ねてきたけれど気にしない。無言を押し通すことにした。別に無視、ってわけじゃないよ。

ゆいさんは綱海さんと楽しそうに話しているところだった。いつもならちょっとムカムカっとして、でも仕方がないことだと自分を抑えつけているのだけど、今日ばかりはそう簡単にはいかなかった。びっくりしている綱海さん。すみません、渡せないんです。突拍子もないこの行動を起こしたわけは普段ならそこまで関わることのない不動さんが関係していた。内容は勿論、ゆいさんと綱海さんのことだった。

綱海→桜井、不動さんがそう地面に書く。桜井はゆいさんの名字だ。こっちが本題だと言わんばかりに矢印の上にハートが付け足される。つまりはつまり、だ。前々からそうなではないのかと、綱海さんの行動パターンからどこかで幾度となく感じてはいたが、断定はできなかった。それに、気付かないフリをしていたのだ。綱海さんと真っ正面から競っても俺が勝てる可能性はごくわずかだ。自信は正直なところ、全くない。かといって卑怯な手を使う勇気も、ない。俺は焦っていたのかもしれない。ゆいさんが綱海さんの恋人になってしまうかもしれないんじゃないかって。

綱海さんは男の俺から見ても魅力的だ。容姿だって申し分ないし、運動神経も抜群だ。海の男と自負するだけあってサーフィンもお手のものだ。焦げた褐色の肌によく似合うピンク色した髪の毛が、まぶしい。ぱっとしない俺とは正反対だ。それに人当たりもいい。爽やかだ。頭は良くないと以前本人が笑い飛ばしていたが、それを補ってでもありあまるほどの魅力が綱海さんには備わっているのである。強敵だと思っていた。そして羨ましくも思ってたんだ。



「あ、あの、お願いがあるんですけど」
「私にできることなら協力するけど」
「……ゆいさんじゃなきゃできないことなんです」
「とりあえず言ってみて」



すう、と息を吸い込んだ。なにも考えられない。自分がなにを言いたいのか、なにがしたいのか思考が回らないまま、言葉が勝手に口から飛び出した。



「……俺と駆け落ちしてくれませんか」



ぽかんと、ゆいさんは予想を大きく外れた明後日の方向を向いた言葉に動きを停止させた後、けらけらと笑いはじめた。涙を溜め、笑い続けるゆいさんにバカなことを口走ったと後悔と羞恥を抱く俺。恥ずかしいことこの上ない。泣きたい。
もう笑い話で済ましてしまおうと口を開きかけた時、ゆいさんが急に手をとってきた。立向居くんって可愛いねー、笑いこけた後にゆいさんはいいよと微笑んだ。は?頓狂な声が出た。だから駆け落ちするんでしょ?零れそうだった涙が一瞬でかわいた。今度は俺がぽかんとさせられる番。言って良かったのか、間違いじゃなかったのか、からかわれてるんじゃないのか。ゆいさんはこれからよろしくねーと握った手をぶんぶんとふる。俺はただ、頷くしかできなかった。






!!!!!
たちむー書いてないなとのことったちむーを。




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