雪の宿



音が吸い込まれるかのような肌を刺すような冷気の中を私と士郎は歩く。寒いねー、と息を吐けば白く空に混じる。黒の濃い空に鮮明に輝く星たち。街灯も赤々と付けられて夜だというのに行き交う人も少なくない。同じく寒いねと吐いた士郎の吐息は目の前でやはりきらりきらりと光り輝いて、その輝きを失わせた。それはまるでダイヤモンドのように私の瞳に映った。

アツヤが士郎の中に宿ってからはや数年。二人は一つの体の内側で共存していた。私は昔、アツヤが好きだった。私たちは俗に言う幼なじみというやつでアツヤに恋した。だからかは知らないけれど士郎がちょっとだけよそよそしい。好きだった、でありそれは過去形。アツヤは好きだ。だけどそれは恋愛感情としては終わりを告げていたのに、士郎はそれを知らないから。だから士郎はよく、アツヤに変わろうか?と口にする。私は首を横に振るだけ。別にアツヤとチェンジしたところでなんら問題はないのだけれども、私は士郎といたいのだ。いつからかはわからない。気付けば私は士郎に恋をしていたのだ。アツヤはそれを知っている。知っていて背中を押してくれる。のに、昔はなかった壁が私と士郎の間に確かに存在しているのだ。

士郎は、モテる。告白の呼び出し、なんてざらだ。整った容姿に抜群のサッカーセンス。それに性格、と三拍子揃った吹雪士郎を好きにならないほうがおかしいのかもしれない。女の子の扱いは手慣れたものだ。彼から女の子が絶えることは、ない。それなのに士郎は特別を作りたがらない。ごめんね、と優しく断るだけだ。

私は士郎がわからくなった。昔はなにかあったらすぐに相談してきたり今よりはだいぶ仲良かったはずなのに。いつの間にか士郎と距離ができてしまった。アツヤとは変わらずいられるのに士郎とだけ。士郎がわからない。今士郎はどんな気持ちで私の隣を歩いているのだろうか。寂しい。吸い込んだ冷たい外気が肺を貫いた。

「士郎、」
「なに?」
「やっぱりいいや」

士郎はめっきり私の名前を呼ばなくなった。士郎の隣で士郎の吐き出す息を吸い込む。けらけらけらと道行く人に、空に、この微妙な関係を笑われているようでずしりと心が重くなった。私は士郎が好きだけれど士郎は……?士郎の口からききたい。キライ、でも構わない。曖昧なんかじゃなくてごまかさないで士郎の声でききたい。

「士郎は私がキライ?」
「……どうかな」
「笑ってないで答えてよ!」

士郎を掴もうと伸ばした腕は払いのけられた。ああ、キライさ、僕は君が大嫌いさ。俯いた士郎から漏れたか細いうめき。キライだよ、奥歯がギュッと噛みしめられた。僕の欲しいものを全て失わず持っている君が大嫌いだよ、士郎は私の目を直視してにこりと笑う。アツヤを想う君もなにもかも大嫌いだ。吐き捨てられた言葉が痛い。ぎりぎりと抉られる不快感。だからさ、と士郎はこれまで見たことのない最高の作られた笑顔で囁いた。

「だから離してなんかやるものか。逃がしてなんかやるものか。大嫌いな君なんて僕の隣で朽ちてしまえばいい。アツヤと幸せになんてならせはしないよ、ゆいちゃん」

違う、と開きかけた口が閉じた。喉まで出掛かっていた言葉が飲み込まれた。士郎の笑顔が私を非難しているかのように感じとれた。

ねえ、ゆいちゃん?粘り気の帯びた有無を言わさないような士郎の声に私はただ頷くことしかできなかった。





!!!!!
吹→→→→→→→←主
なんですよね一応両思いです。



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