羽根のない背中




すずの、すずの!すずのせなかにはまっしろなおおきなつばさがはえているみたいだねー、あいつはにやりと口元に目元に、そう、笑みを浮かべながらわたしをぎゅっと抱き締める。そして背中へと腕を回して囁いたのだ。じくじくと触れられた箇所が熱を帯び、熱い。熱い熱い熱い熱い。患部はまるで焼き尽くされるかのよう。溶け流れてしまってもおかしくないくらいに。それならわたしよりもアフロディのほうが適任だろう。あいつはぽかんと間抜けな顔をしたかと思えばすぐににっこりと笑みをたたえて、すずののほうがてきにんだよ、と口にする。すずののしろいはね、とってもきれいでそしてもろそうね、わたしはその言葉の意味を理解できなかった。あいつの声はどこか遠くてそして。こわいよすずのとあいつは呟いた。伸びた黒く長いあいつの睫がガラス細工のような水滴を弾いた。わからなかった。涙のまけも原因も。頭打ったのか?悪いものでも食べたのか?あいつは俺の問いかけすべてに首を横にふる。ちがうのすずの、すずのが、すずのがまばたきしたらどこかへとんでっちゃいそうにみえたの。すずのがとおい、そう零したあいつの声が頭にこびりついた。もうにどとあえなくなっちゃいそうなきがして、いてもたってもいられなくなったの。わたしはぽんぽんとあいつの頭をただ撫でることしかできなかった。どこにもいかないで、すずの。心配するな、わたしはお前をおいてどこにも行きはしない。そう、よかった。望むならばいつまでもそばにいてやろう。……そう、約束、したのに。指切りまでしたのに。破ったら罰ゲーム、そう提案したのはあいつなのに。なのにあいつはわたしの側からいなくなった。あいつはわたしを置いて知らない世界へと旅立っていってしまった。あれほどきつく約束しておいたのに。いとも簡単に破ったのはあいつ。あいつは死んでしまった。わたしと別れた直後に信号無視のトラックによってひかれたのだ。後悔、した。わたしが家まで送っていれば?少なくともあいつは死なずにすんだかもしれない。遠い、なて生易しいものなんかじゃない。もう決してわたしとあいつは出会うことはないのだ。できないのだ。いくら望もうとも、それは変えられない。もうあいつと話すこともあいつの表情に触れることもぬくもりを感じることも叶わないのだ。背中に羽根が生えていたのはわたしなんかじゃなかった。あいつは地を蹴り、軽やかに飛び去ってしまった。生きる上で生じる全てのしがらみから抜け出して、そうして見えなくなった。ゆい、君の瞳にわたしが儚く映ったわけはきって君がわたしから遠ざかっていってしまっていたからだろう。離れていたのは君だったよ、ゆい。背中に羽根が生えていたのは君のほう。純白の眩い羽根がわたしからゆいを奪ってしまった。わたしの背中には羽根はない。ゆいのもとにはいけない。方法もなくはない、だけどそれはあいつが一番望まない方法に頼ることとなってしまうだろう。それはゆいのためにもできないこと。罰ゲームはどうしようか。なんにしようか。……なんて考えても虚しいだけ。もうあいつはいないのだ。そっと手のひらをかざせばふわりと白い羽根が一枚、舞い落ちたような気がした。





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改行なしで読みにくいはず。なんだか、なのは今更だよね!




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