ちゅーっと音が立てられて紙パックがぺこんとへこむ。ストローは吸い上げられた中身と同じ赤の強いオレンジに染まっている。野菜とらないといけないんだよ、と野菜一日これ一本だかなんだかそういった名前のような飲み物を味はあんまり好きじゃないんだけどねと顔をしかめながら飲み干した名前を見て違うのにしろよ、なんて思う。どうせそれ一本飲むことで嫌いな野菜を食べずに済む!なんて思ってまんまとつられたんだろうけど。ちゃんとバランスよく食べればいいのにバカじゃないの。嫌いなら嫌いで好きになる努力をすればいいんだ。どうせいつもの食わず嫌い、なんだし。名前の手によって弧を描いて投げられた紙パックはみごとゴミ箱にイン。ノーコンのくせに珍しいこともあるもんだ。
「……ねえミストレさん、今私のこと心の中でだけど貶さなかった?」
「何を根拠にそんなことをキミに言われなくちゃいけないの?いいがかりはよしてくれる?」
「なんかいちいちムカつくやつだな」
「名前にどう思われようが興味ないね」
「ああそうですかー、あんた見た目に反して可愛くないね」
「別に。可愛いなんて思われたくないし好都合だね」
「うわ、うっざ」
「大丈夫、心配しなくても名前には負けるから」
「ちょーっと成績いいからって調子に乗るなよ」
「そうだね、頑張っても名前じゃあオレを追い越すどころか追いつくこともできないもんね」
「ふん、バダップに勝てないくせに」
それでも名前から離れることができないのは少なからず名前への特別な感情が存在しているからだろう。それはきっと名前も同じだと思う。だからオレから離れていかないんだろう。うわあああ、自分が気持ち悪くて仕方がないんだけど。おえ。
「ねえ、ミストレ」
「……」
「なにシカト?」
「……ああごめんごめん。名前の声を聞くまいと耳が拒否反応を示したみたいだ。で、なに?」
「……」
「自分から呼んでおいて無言?」
「……ねえ、ミス、トレ」
「だからなに」
「……」
「……早くしてくれない?」
「えっと、その、」
「なに」
「私と、別れてほしいって言ったら……、どうする?」
鈍器で頭を殴られたのかと思った。言いにくそうに俯いた名前の口から飛び出した言葉は理解不能のその言葉は脳天をぐさりと遠慮することなく勢いよく突き刺す。聞き間違えたのかともう一度尋ねるも帰ってきたのは同じ言葉で名前の肩はふるふると震えている。声もまたしかり。名前に触れようと伸ばした手はすいっと器用に避けられてしまった。困ったことにオレは相当名前にまいっていたらしい。
「名前?」
「……」
「なんでまた急に、」
「……なにも、訊かないでほしい」
「オレ、なんかしたっけ?」
ふっと自分のおこないを振り返って、見つめなおしてみる。……あれ、名前がオレを好いてい続けてくれるような点がまったくと言っていいほど見つからないんだけど。オレは一体どこでどう間違えたのだろう。名前の肩をがしりと掴めば名前の震えは強まった。
「顔、あげろよ」
「……やだ」
「なんで」
「……なんでも」
「他に、好きなヤツでもできたのか?」
「……そうじゃ、ないけど」
「なら!」
「……」
「……」
「……ごめんね、ミストレ」
別れるなんてオレは認めない、半ば無理矢理に名前の顔をあげさせる。……あれ?てっきり泣いているもんだと思っていた名前の震えはまさかの笑いを押し殺すためのものだったらしい。気が抜けるやらイラっとしたやらで名前の頭をがしりと掴めば名前は割れる割れる!と叫ぶ。もう割れたらいいと思う。
「さっさと吐け」
「言います!言いますからチカラを抜いてください!」
「……吐くなら、考えてやらないこともないが」
「喜んで吐かせていただきます」
オレを謀った理由を簡潔に言えと脅すように笑えば名前はエスカバの入れ知恵だと口を割った。どうしてエスカバがそこで出てくるんだ。……どうやら名前はオレをぎゃふんと言わせるいい案はないものかとあろうことかエスカバにアドバイスを求めたらしい。とりあえずエスカバあとで覚えてろ。
「びっくりした?」
「……多少は」
「またまたぁ、嘘は感心しないなあ」
「……」
「痛い痛い痛い痛い痛い!」
「あっそ」
「離せ!ミストレのバカ!」
「ようし、名前の気持ちはよくわかった」
勝ち誇った顔で笑う名前にちょっとした制裁を。ミストレが私を嫌いになることはあっても私がミストレを嫌いになることはないから安心して、へへへとオレの気も知らないでのんきに笑う名前のまぬけ面を崩してやりたくて名前の腕を強く引いて次の言葉を奪った。ぬるりとした名前の舌を探し当てると強引に絡めとる。ん、っとくぐもった声を上げる名前になんだか満たされるオレがいるのを感じた。
!!!!!
王牙の中だったらミストレが一番だな。キャラ崩壊、かもしれん。