白恋中サッカー部、部活終了後まったりとした時間をおもいおもいに部室で過ごす中、突然珠香ちゃんが王様ゲームをやろうなんて言い出した。反応は面白そうだと声を上げるものやめんどくさそうに顔をしかめるもの、まちまちだ。何でまた突然?一緒にトランプとしていた吹雪くんが顔をあげた。私は吹雪くん、紺子ちゃん、湿原くん、そして空野くん、この5人でババ抜きの罰ゲーム付きをしている途中だった。丁度ジョーカーが私の手札の中にあり、それに運よく紺子ちゃんが手をかけたところでの一時中断。ちぇーっと残念がる私に吹雪くんが名前ちゃんにジョーカーがきてたんだ、とにっこり。どきんと心の臓が脈打ったのが吹雪くん本人にばれてしまわないように必死で平静を繕う。うまく繕えていたかはわからないけれど少なくともばれてはいない、はず。



「でもなんでまた急に?」

「暇つぶしにはいいでしょ?」

「道具とかは、どうするの?」

「もっちろん準備は怠ってないよ」

「用意周到だね、」



じゃーんと人数分の割り箸をどこからか取り出した珠香ちゃんに吹雪くんも苦笑い。いつかみんなでやろうと思って前々から用意してたの、どこか得意げな珠香ちゃんに隣にいた氷上くんにどう思う?と尋ねればいいんじゃない?と返ってきた声は面白そうだと主張していた。王様になっても私は指名しないでね、そんなのわかるわけないじゃん、氷上くんは俗にいうイケメンだと思う。まあ吹雪くんが一番だけどね。ちらりと吹雪くんに目をやれば視線が交わって不意のこと故思いっきり反らしてしまって自己嫌悪。ふ、と隣にいる氷上くんに笑われた。


吹雪くんの周りにはいつも女の子がいてうかつにはクラスが違うことも手伝って近づくことができない。唯一交流がもてるのは部活中のみ。そのチャンスもなかなかものにできないのが現状だ。私の気持ちに気付いているのは女の子2人と氷上くん、それくらいのものだと思う。ちょくちょく協力してくれてはいるものの私が不甲斐ないばかりに無駄にしてしまう始末。本当に申し訳ないと思ってはいる。



「「王様だーれだ」」

「あ、僕だ」



トップバッター、割り箸の先にある赤い王様を示すマークの引いた主は空野くんだった。空野くんは少し考え込んで4番が一発芸をすると命令する。笑ったりちょっと引いたりしながら王様ゲームは進行していく。



「1番が8番に告白ね」

「げ、」

「俺と、え?」



王様の命令で選ばれたのは地平くんと五稜くん。人生初の告白が男になんて、と遊びでも耐えられないとショックを受けていた。



「「王様だーれだ」」

「いよっし!」

「なんだ真都路か、」

「ちょうどポッキー持ってきてるから、うーんそうだなあ……、8番と12番がポッキーゲーム、なんてどう?」

「これ男同士だったら結構きついよね」

「あ、12番って、僕だ」

「え、まじですか」

「……もしかして相手ってさ、名前ちゃん?」

「……いえす」



これはいったいどうしたらいいのだろう。氷上くんががんばれと目で合図をしてきたが無理だ。8番と呼ばれてぎゅっと割り箸を握りしめた私。出された命令、ただでさえ遠慮しておきたいポッキーゲーム、それも相手が吹雪くんときたもんだ。助けを求めようと珠香ちゃんに視線を移せばにやついていた。その顔で理解することができました。仕組んだんですね。ポッキーの持ち手側が珠香ちゃんの手によって有無を言わさず押し込まれる。王様の命令よ!と吹雪くんに無理矢理反対側を咥えさせてゲームスタート。困ったように微笑んだ吹雪くんにつきんと胸の奥が軋んで途中で折ってしまおうと試みる。あと5センチのところで試みは成功。ほっと胸を撫で下ろしたところで珠香ちゃんにワザと折ったでしょとなぜか後頭部をがしりと掴まれた。



「なんで折っちゃうの!」

「いやだって吹雪くんが嫌がると思って」

「え、僕が?」

「好きな子以外とはしたくないでしょ?」



珠香ちゃんがはあああっと長いため息をついた。吹雪くんが私のことを好きなんてありえないことだし、勘違いなんて馬鹿な真似はしない。それに私だって嫌だと思われてまでしたいとは思わない。むなしいし、なにより悲しい結果にしかならないことは目に見えている。あ、ここはワザとじゃないよって言ったほうがよかったのかな、なんて考え込んでいると不意にぐいっと掴まれたままの後頭部を前に押された。それは一瞬だった。あんたたちじれったいのよと視界は吹雪くんの驚いた表情で一杯で唇にぶつかる柔らかくて、淡い熱。



「あとはごゆっくり」

「「ごゆっくりー」」



やるだけやって引っ掻き回して珠香ちゃんはさっさとみんなを連れて部室を出て行ってしまった。残されたのは私と吹雪くんとで。ごゆっくり、と言われましても。あんぐりと口を開く吹雪くんにまずは謝罪をとごめんと口にする。事故、そう事故だったんだよ、まともに吹雪くんを視界に捕らえることなんてできなくてかっかかっかと熱を抱く頬を隠すためにと言い訳して吹雪くんに背を向けた。荷物をがさがさとカバンの中に押し込みそそくさと部室を出ようとした私の右腕はぱしりと音を立てて掴まれる。しんと静かな部室内に私の心音がこだましてるんじゃないかって錯覚を覚える。私の腕を掴んでいるのは確認するまでもなく吹雪くんしかありえなくて、でも振り返ってみる勇気なんかなくて。掴まれた箇所が発熱してくらくらする。呼吸がうまくできない。



「……」

「……」

「……」



沈黙が続く。重苦しい雰囲気に耐え切れずどうしよう、どうしようとざわめく内心。それでも掴まれた腕を振りほどくことなんて私にはできなくてただ時間だけが過ぎていく。先に口を開いたのは吹雪くんだった。



「……名前ちゃんはさ、」



覚悟を決めて、おそるおそるながら振り向けば悲しそうに目を伏せた吹雪くんがいて、戸惑った。どうして吹雪くんがそんなカオするの、言葉が詰まった。私を掴む吹雪くんの腕が微かに震えている。



「僕のことニガテ?」



表情を曇らせるたれ目がちの吹雪くんの透き通った瞳に映った私は今にも泣き出しそうだった。



「……どうしてそんなこと訊くの?」

「だってほら名前ちゃんって僕といるときより烈斗くんたちといるほうが楽しそうだし、それに名前ちゃん、なんか僕にだけ一線引いてるような気がして」

「……そんなことないよ」



緊張してるだけなんだよ、……その一言が言えなかった。私の言葉を飲み込むように先に発せられた吹雪くんの言葉、嫌なら言ってくれれば名前ちゃんとなるべく関わらないよう努力するから。吹雪くんの言葉に私は頭を振って拒否することしかできなかった。



「……別に嫌じゃなかったよ」

「何が?」

「……」

「……」

「……だから、その、名前ちゃんとのさ、ポッキーゲーム」

「え?」



吹雪くんはそうはにかんだけど残念なことに私のパンクしかけの脳内の情報処理能力は著しく低下しており、その半分も理解できなかった。



「名前ちゃん言ったよね、好きな人以外とはしたくないでしょ?って」

「うん、だって嫌じゃない?」

「好きな人以外とは、そりゃね」

「ごめん、」

「なにが?」

「さっきのキス」

「あー……、だってあれは不可抗力だったし」

「でも、ごめん」

「名前ちゃんはさ、嫌だった?」

「へ?」

「僕が相手じゃ、嫌だった?」



すっと掴まれていた腕が離された。射るように真っ直ぐ見つめられて、いたたまれなくなって視線を泳がせればもう一度名前を呼ばれた。



「僕は名前ちゃんと、嫌じゃなかったよ」

「……はい?」

「ねえ、手、貸して?」



言われるがまま右手を差し出せば吹雪くんはそれを自分の胸に当てる。伝わる?吹雪くんの心臓はどくんどくんと私と同じような鼓動を示していた。期待してしまいそうになる自分にあの白恋の王子様が私なんかを選んでくれるわけないと言い聞かせる。名前ちゃん、再び名前が呼ばれて、そして。私は吹雪くんの腕の中にいた。名前ちゃん、耳元で呼ばれた名前がくすぐったい。吹雪くん、と名前を呼べば吹雪くんは一回深呼吸。一呼吸置いてあのね、と切り出した。



「名前ちゃんは僕のこと好きじゃないかもしれなし、烈斗くんことが好きかもしれないけど」

「ちょっと待って、私の好きな人って氷上くんじゃないんだけど」

「……そうなの?仲いいからてっきり、」

「氷上くんには相談にのってもらってただけで」

「そっか」

「そうなんだ」

「……」

「……」

「「ねえ、」」

「……」

「……」

「……名前ちゃんからどうぞ」

「いやいや吹雪くんからどうぞ」



吹雪くんの抱きしめる腕から開放された。もう砕けること覚悟で言うしかない、か。



「「すき」」

「「ええっ?」」



吹雪くんとまたしてもタイミングよく言葉が重なり合う。なぜだか無性におかしく感じて、吹雪くんと顔を見合わせて笑った。



「好きだよ名前ちゃん」

「私も好きよ、吹雪くん」

「でも、まさか両想いだったなんてね」

「なんか……、まだ信じらんないや」

「僕も。夢みたいだ」

「嘘、じゃないよね」

「嘘ついてどうするの。そういえば名前ちゃんって僕のこと、避けてたよね」

「ごめん、なんか緊張しちゃうからつい、」



くすくすと笑う吹雪くんは力が抜けてへたり込む私の目線に合わせるようにしゃがむ。なんか恥ずかしいね、と照れた顔を手で覆えばもっとよく見せてと阻まれた。



「さっきのリベンジ」



珠香ちゃんが置いて帰っていたポッキーの袋から一本取り出して咥える吹雪くんに促されておずおずと反対側を口にする。チョコの甘味が私たちの隙間を埋めるよう広がった。



翌日、にやにやしながらよくやったと肩を叩く珠香ちゃんの様子から隠れて見られてたんだと知り、羞恥心が一気にこみ上げてきた。





!!!!!
珠月さま、お待たせしてすみません。ポッキゲームネタとありましたがいかんせんどういった経緯でさせたらいいのか。いろいろ迷いに迷った結果、無難に王様ゲームからのポッキーゲーム、といった感じになりました。折らせたのは仕様です。しかしそのぶん微妙な結果になったことは隠すまでもないですね。リクエスト、ありがとうございました。




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