私は吹雪士郎くんが好きだった。太陽のような温かい微笑みも柔らかい声色も、吹雪くんのすべてが私をくすぐりどきどきと心臓を脈打たせた。好きですと吹雪くんに勇気を振り絞って気持ちを伝えたのは少し前の放課後、友達に背中を押されてからの告白だった。吹雪くんは目を見開いた後、照れくさそうに微笑んで、そして突然真面目な表情へと戻った。名前ちゃんのことずっと好きだったけど少し考えさせてほしい、難しそうな表情を浮かべて吹雪くんは苦笑い。私としてはダメ元での告白だったし、緊張から吹雪くんの複雑な表情の意味なんて考えている余裕なんて持ち得ていなかった。





一週間後、吹雪くんからの呼び出しがあった。おずおずと呼び出された場所に向かった私を待つ吹雪くんはなんとも浮かない表情をしていて。ああ、と瞬時に吹雪くんからの言葉を理解したつもりでいた。けど、飛び出してきたのは予想とは真逆の言葉で一瞬理解が及ばず訊き直した。



「名前ちゃん、僕と付き合ってください」



嬉しいはずの言葉にも関わらず、唇を噛み締め今にも泣きそうな顔で俯く吹雪くんに言いようのない不安がよぎりどうしたのと手を伸ばせばがしりと手首を想像し難い力で掴まれる。痛いと声をあげる私の視界には私の知っている吹雪くんは存在ていなくて、にやりと口角を釣り上げさせて笑う彼は吹雪くんの皮をかぶった別人のように思えてぞわりと背筋があわだった。



「あなたは、誰?」



これが私と吹雪くんのもう一つの人格の吹雪アツヤとの出会いだった。



「誰って名前の好きな吹雪だよ」

「う、そ」

「って言っても、まあ俺は吹雪士郎であって士郎ではないんだけどな」



鼻で笑う彼は吹雪くんとは全く違う雰囲気の持ち主で目の前で起こる現実を私はなかなか受け入れることはできなかった。



「俺はアツヤ、アツヤだ。覚えとくんだな」



金色に変化した瞳の奥に私が映る。



「アツヤ、くん?」

「くん、は要らねえ」

「でも、」

「要らねえ」



少し苛立ったように落ちた声のトーンにびくりと身体が反応したのに対し彼は楽しそうに目を細めて笑っていた。



「アツヤ」

「え……?」

「呼んでみろ」

「……、でも」



くいっと顎を持ち上げられて、再び視線が交わる。吹雪くんであって吹雪くんでない彼の名前をぼそりと呟けば聞こえなかった、とにやにやしながら言い直しをさせられた。





それからというものの、私はよくアツヤと同じ時間を共有することが多くなっていった。というのも私といるときは殆どアツヤのほうが吹雪くんの身体を乗っ取り表に出てきており、吹雪くんとの二人の時間は数えるほどもなくなっていった。それでも私は吹雪くんが好きで好きで仕方なかった。アツヤからすればそれが癇に障るらしく、吹雪くんの話題を出す度に拗ねて不機嫌になった。自分の半身というにも関わらず、だ。どうして?っていつの日かアツヤに尋ねてみることにした。



「俺のほうが士郎のやつよりも先にお前のこと好きになったのに」



まさかの衝撃の展開だった。私が驚いている間にアツヤは引っ込んでしまっており、久しぶりの吹雪くんとの時間が不意打ちで齎された。なにを話したか、それすら覚えていないほど私は混乱していたんだと思う。妙に早い心音に自分がアツヤにも惹かれていっていることを気付かされた。



「ねえ」

「ん?」

「アツヤのこと、どう思う?」

「どうって、例えば?」

「名前ちゃんさ、」

「うん」

「アツヤのこと、好きでしょ」



正直言葉に詰まった。嫌い、と言えば嘘になってしまう。でも吹雪くんを嫌いになってしまったわけじゃない。吹雪くんへの恋心は変わらない。どれほどアツヤに惹かれていこうと、ずっと健在なのだから。吹雪くんの問いの答えとしてこくん、と頷いた。



「僕はね、」



吹雪くんはにっこりと変わらない笑みを浮かべてゆっくりと話し始めた。



「はじめは段々とアツヤに惹かれていく名前ちゃんを見て、嫌だなって思ってたんだ」

「……ごめん」

「あ、責めてるわけじゃないんだ」



名前ちゃん、ぎゅっと吹雪くんに抱きしめられた。吹雪くんは続ける。



「僕だけを見ていてくれたら、ってそう思うこともあった。でもね?最近それでもいいかなって思い始めたんだ」

「……どうして?」

「だって名前ちゃんは僕のこと好きでしょ?」

「うん」

「だからね、もういいんだ」



私を抱きしめる吹雪くんの腕の力が強くなる。僕が名前ちゃんに惹かれ始めたきっかけはアツヤだったんだ。吹雪くんの体温が私の首筋にそっと触れた。



「名前ちゃんが僕のことを好きだってそう言ってくれた時はすごく嬉しかった。でも、アツヤのことを考えるとすぐに答えが出せなかった。僕以上にアツヤだって名前ちゃんのことが好きだったんだから」



吹雪くんは一杯悩んだんだよ?とふう、っと息をついた。



「でもね?アツヤは僕の半分、でしょ?アツヤだって僕なんだ。そう思ったら楽になったんだ」



くすりと吹雪くんが耳元で笑った。



「名前ちゃんのことは好きだけど、それと同じくらい、アツヤのことだって好きなんだから」



私は吹雪くんとの、アツヤとの日々を思い出すべく目を閉じる。アツヤの好きなようにさせてあげてたけどこれからは自由に行かせて貰おうかな、こつんとおでこになにかが軽くぶつかった。片目だけ開いてみると吹雪くんの綺麗な顔のアップがあって。



「今日は僕が名前ちゃんを独占させてもらおうかな」









ゆっくりと唇同士が重なった。





!!!!!
久々の更新すみません。おまけに書き方忘れたっていう。
書きたかった内容(どろどろっぽいの)からの大幅な路線変更はありましたが、気にせずいこうかと。
内容gdgdなのはいつものことなので目を瞑ってやってくださいませ。





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