ケジメをつける、一之瀬くんはそう言った。前へ進むために、と腹をくくった一之瀬くんの凛とした意志の強い瞳に促されて、私も一之瀬くんに倣って片思いの彼へのケジメをつけようとそう思った。
「好きです」
案の定、私の思いは実らなかった。届かなかった。友達以上には思えない、反響する彼の言葉をぐっと噛みしめた。不思議と涙は出なかった。
やあ名前!と笑顔を向ける彼、一之瀬くんをお手本にして私も笑顔を向ける。今日は言わずもがな、の失恋パーティだ。乾杯、一之瀬くんの合図とともにお茶の入ったグラスを高く掲げた。
「名前はどうだった?」
「察してくれると助かる」
「そっか、俺も」
「……おつかれ、私たち」
「うん、おつかれ」
一之瀬くんがぐいっとお茶を飲み干したその隣で私もコップへ口をつける。ジュースのほうが良かったな、と後悔したのは言うまでもないだろう。
「でもやっぱフラれるのってわかっててある程度覚悟していたけどキツいね」
「ねー」
「名前はなんて告ったの?」
「それ訊いちゃう?」
「訊いちゃう」
「はっはっは、教えなーい!」
「ケチ」
「なんとでも!一之瀬くんは?」
「教えなーい」
一之瀬くんは幼なじみの秋ちゃんって子に片思いしていた。秋ちゃんって子と直接会ったことはないけれど写真等で一之瀬くんがよく自慢気に見せびらかしていたのでよく覚えている。女の子らしい可愛い子。モテモテ一之瀬くんが惚れちゃうのも頷ける。自慢したくなる気持ちもよーくわかる。
「こうなったら秋にはなんとしてでも円堂とくっついてもらわないとね!」
「ねえ、円堂くんってさ、イナズマジャパンのキャプテンの?」
「ああ、彼さ!」
「ふーん、がんばれ秋ちゃん!」
「でもなー、問題があるんだよ」
腕を組んでうーんうーんと唸る一之瀬くんになにが問題なの?と問いかければ、円堂は鈍いんだ 鈍すぎるんだ、とため息をついた。どうやらその円堂くんの鈍さは筋金入りらしい。あと秋ちゃんの他にもマネージャーの4人に3人は円堂くんに好意をよせているらしい。一之瀬くんに負けず劣らずモテモテじゃん円堂くんも。こりゃ秋ちゃんもたいへんだな。
「あ、名前、お茶注いで」
「なんかお茶しかなかったごめん」
「なんで?別にいいけど」
「お菓子買い込みすぎて飲み物までお金が回らなかった」
「名前らしいと言えば名前らしいね」
「誉められてるのかわかんないな」
ははははと笑うことによってごまかす一之瀬くん。ちまりは誉めてないってことだね。わかってる。
「でも名前といると落ち着く」
ごろんと寝転んだ一之瀬くんにポッキーを差し出せばありがとうと少し体を起こして手に取り、しげしげと眺めたあと口に含んだ。
「俺、名前のこと好きだよ」
「私も一之瀬くんのこと、好きだよ」
「恋愛感情じゃないけど」
「その言葉そっくりそのまま返すよ」
秋を好きになれてよかった、穏やかな表情を浮かべ幼馴染を思い浮かべているであろう一之瀬くんはここ一番の魅力を放っていた。ずっとこの友情が続けばな、フッと笑ってぽりぽりと遠慮することなく次々とお菓子に手を伸ばす一之瀬くんの手を叩いてやれば一之瀬くんはケチ、と頬を膨らませた。私の分でもあるんだからね。あとお金出したのは私。
なにを思ったか一之瀬くんがずっと友達だよと飛びついてきた。気が抜けたのか、鼻をずずっと鳴らす一之瀬くんを見なかったことにして、ここにきてやっと溢れそうになった涙をぐっとこらえた。
!!!!!
一之瀬くんは恋愛より友情のほうがおいしい。というかリカちゃんとか秋ちゃんとかがいるからねえ、どうしても。