部活終了後、すでに着替えを済ましてケータイを片手に何やら難しい顔をしているヒロトをどうかしたの?と覗き込めばヒロトはうわああっと声を上げた後、声を掛けたのが俺だと分かるとなんだ緑川か びっくりしたと胸を撫で下ろした。ヒロトの声にびっくりさせられたのは、俺のほうだ。部室にまだ残ってキーパーについて立向居くんと語っていた円堂くんや帰ろうとドアに手を掛けていた豪炎寺くん、ゲームをしていた栗松くんとそのゲームを覗き込んでいた壁山くんなどの視線が何事か、と一斉にヒロトと俺とに注がれる。何かあったのか?ヒロトを気遣ってそう尋ねる円堂くんにヒロトはにっこりと笑ってなんでもないよと。そうか?どうも腑に落ちないという表情を浮かべていた円堂くんだったけど訊くのは野暮だと思ったのか、それ以上深くは追求してこなかった。栗松くんのゲームのBGM、再び過熱する円堂くんたちの話し声。それで?俺は再びケータイの画面を眉根にしわを刻み込ませながら凝視し、ため息を吐いているヒロトに声を押さえ気味にくるりと向き直った。相も変わらずヒロトはケータイとにらめっこ状態。ほんとなにがあったの?ヒロトがこうも思いつめているのもまた珍しい。ちょっとね、言葉を濁し苦笑いをしながらケータイの画面をずいっと見せてきたヒロト。目を凝らして画面を食い入るように見つめた。



「名字さん?」



ああ、なるほどね。そこには見慣れた、というか聞きなれた名前があった。名字さんは風丸くんの幼馴染でちょくちょく俺たちイナズマジャパンの練習風景を見に顔を出しにくる、まあ要するに、ヒロトの想い人だったりするわけでして。俺を睨みつけてしーっとジェスチャーするヒロトに少し声が大きかったかな、と反省しとりあえず謝っておく。それでなんで名字さんのアドレスを?こそっとヒロトに耳打てばちょっといろいろあって頑張って訊いたんだ、と複雑そうな表情を浮かべ、問題かここからなんだ、と続けて呟いた。なんて送ればいいと思う?……は?今なんて?あのヒロトが?少し頬を染めてどう切り出せばいいかわからないんだ、と困ったように笑うヒロトに一杯居る女友達に送ってるような内容でいんじゃない?と返せばそれができないから困ってるんだ、とヒロトは言う。なにこれめんどくさい。俺、すごーくめんどくさいのにつかまったんじゃ……?



「無難に今なにしてるの?とかは?」

「それ、一番うざいってルルとかが言ってた。ちなみにメール送るのこれがはじめてなんだ」

「えー?じゃあもうヒロトですよろしく、とかは?」

「その後の話題なんだよ!ねえちゃんと考えてる?」

「なんで俺が!」

「いいから早く考えてよ」

「そういうヒロトこそ!」

「俺はちゃんと考えてるよ?考えてるけどいい案が思いつかないからこうして緑川に相談してるんじゃないか」



もっと頭使いなよ緑川、とヒロトの馬鹿にするような物言いにイラっときた。人のこと言えないだろ。しかえしにとヒロトのケータイを奪い、かちかちと素早く文字を打ち込み送信ボタンを押した。あああああ!なんてヒロトは声を荒げている。なんてことするんだ緑川!と慌てふためくヒロトを余所に思っていたより早い名字さんからの返信を告げる着信音がいつも間にか俺たち二人を残して誰もいなくなった部室内に響き渡り、ヒロトのケータイは俺の手の中でぶるぶると振動を繰り返していた。きっと俺を睨み付けるヒロトは変なメール送ってないからと焦って言い訳をする俺の一瞬のスキをついてケータイを奪い返す。そして。



「みーどーりーかーわ?」



送ってるじゃないか!ぷるぷるとケータイを握り締めた手を振るわせるヒロト。おそらく送信メールの確認をしたのだろう。やべ、まじで怒ってるかんじ?



「でも俺グッジョブ?……痛い!痛いってば!髪の毛引っ張らないで!ごめん!ごめんってば!謝るから許して!」



ぐいんっと力の限りトレードマークのポニーテールを引っ張られ……、正直きれいさっぱり抜け落ちるかと思った。簡単な自己紹介の後に訊いたのは好きな人とかいるの?というなんとまあお約束。不自然じゃないか、とか君に好意を寄せてますよって言ってるようなものじゃん、ヒロトは憤慨していた。自分で送っておいてあれだがうん、俺もそう思う。でも、悪いようにならないと思うんだけどなあと溢せばヒロトは面食らっていた。ヒロト、顔真っ赤だ。怒ってるのか照れてるのか。どっちだろう。はじめてみた。ちなみに根拠は、ある。なぜなら名字さんとヒロト、両思いなような気がするから。勘、だけどあながち間違ってないように思う。つか見ていたら普通にわかる。ヒロトは気づいていないようだけど名字さんの視線の先にはいつもヒロトがいたし。それに恋愛に慣れてそうな吹雪くんもにこにこしながらそう言ってたしね。ヒロトってば肝心なところで鈍いんだから。名字さんからの返事はどうしてそんなこと訊くの?……もうさ、勢いにまかせてさっさと告白でもなんでもすればいいのにって俺はそう思うわけですよ。さっさとくっついてしまえばいいと思うわけですよ。ということで強硬手段。名字さんのことが好きだからかな、ここで俺が動かないと始まらないと思うし、チャンス到来!そう思ったんだ。ヒロトのために一肌脱ごうかなって。別に名字さん名字さんってうじうじするヒロトが見てられないとかそういうんじゃないけど。送信完了画面を唖然と見つめるヒロトは俺に突っかかるでもなく、隅っこのほうで終わった、とひざを抱え込んでしまった。いやむしろ始まったと思うんだけど。聞き馴染んだ着信音にヒロトの身体がびくりと跳ねたのを横目にメールを開く。



「ヒロト、」

「……」

「ヒロトってば!」

「……なに?どうせ、」

「うれしいお知らせだよ」

「は?」



ずいっとケータイの画面をヒロトに押し付けた。ほらねやっぱり俺の思った通りだ。私も基山くんのことが好きですと書かれてあるのを何度となく確認しながら嘘、と頬を抓っているヒロトにまずかおめでとうと声を掛けた。うまくいかないはずがないんだ。





!!!!!
緑川って円堂くん呼びだっけ?違うっけ?
なんか珍しく緑川がたくましい。後ヒロトがヘタレっておいしいと思うんだ。変態設定もいいけどヘタレにきゅんきゅんする。緑川がたくましい。大事なことなので(ry


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