「あーあ、また負けた。名前強いね」
「そう?」
「じゃあ次から負けたら罰ゲーム、ってことにしない?」
「えー」
「いいじゃん」


兄からトランプしようと持ちかけられた兄の部活が珍しく休みの午後三時。兄は休みの日は大抵家にいる。友人、例えば南雲さんとかが遊びに誘いにきても私を理由に断ることが多い。名前が一緒にいたいってだだをこねるんだ、私の記憶が正しければそんなことは一度だってしたことがない。むしろせっかくの休みなんだから遊びにいきなよ、と促すほうだ。


「名前」
「ん?」
「ねえ今、俺以外のヤツのこと考えてたでしょ」
「え?うん」
「バカ!名前のバカ!」
「もうかまってやらない」
「ああ嘘!違うの!だから続きしよ」


トランプは人数が多いほど楽しいものだと思う。けど、今ここにいるのは私と兄と二人。二人でするトランプは正直あまり面白くない。しかも今のところ私が10戦連勝中。そろそろ飽きてきた、なんて口が滑りでもしてしまえばめんどくさいことになるなんて予想の範囲内。


「よっし、俺の勝ち」
「げ」
「さあ名前、おいで」
「えー、やだ」
「名前、罰ゲーム」
「はいはい」


兄が勝利した。兄はきらきらと輝かしい笑みを浮かべながらソファーに座り広げた自分の脚のスペースをぽんぽんと叩く。座れと?なかなか行動に移そうとしない私に痺れを切らした兄が私の腕をぎゅっと掴んだ。


「名前ちゃん捕獲成功ー」
「ちょっとあんまりくっつかないでよ」
「次に名前が勝つまでこのままだよ」
「ちょっと耳元でしゃべらないでよ」
「ふーん、そういうこと」


兄の腕の中にすっぽり納まりきってしまった私。背中から抱きしめられた状態のまま、次のゲームへと突入。兄に耳が弱いとバレてしまってからは兄はちょくちょく耳に息を吹きかけてきたりわざとらしく耳元で話しかけたりするもんだから手元が狂ったりと凡ミスを繰り替えしてしまい負けが二回ほど続いてしまっている。あと、なんだか兄の息づかいがだんだんと荒くなってきているのは気のせいなんかじゃない。早いところ勝ちを掴まないと本格的にやばいことになってしまうと思えてならない。


「はい、名前の負けー」
「それは、だって!」
「だって、なに?」


低めの声で囁かれて背筋にぞくぞくとしたなにかが走る。はい罰ゲーム、兄の声は至極楽しそうで、兄のねっとりとした舌先に耳の裏側をつつつと舐め上げられてかあああああっと血が滾り身体が発熱するのがわかる。背筋のぞくりとした刺激に合わせるかのようにぶわわわっと鳥肌までもが立つ。


「ひあっ……!」
「いー声」
「もういいでしょ!」
「名前が勝つまでダーメ」
「いやこれ以上はマジで洒落にならないからね?」
「俺は、」
「はい、終了!」


兄の腕を振りほどき立ち上がるも再び兄に腕を引かれる。さっきまでかっかかっかと熱かった身体の熱がさっと引くのがわかった。私の上に跨っているのはあろうことか兄で。私は兄に押し倒されていて、両腕は兄の左手で頭上で固定させられている。この状況はまずい、非常にまずい。まずすぎる。私は妹で、兄妹だ。


「名前」
「や、やだなあ、じ、冗談でしょ」
「名前」


兄の右腕によって視界が遮られる寸前に見えた兄はなんだか悲しそうで、今にも泣き出しそうで、喉まで出掛かっていた声が一瞬で引っ込んだ。


「なーんてね、びっくりした?」
「え?」
「俺は妹に手を出すほど飢えてないよ」
「あーもう、びっくりしたに決まってるじゃん」
「ちゃんと抵抗できるようにならないとね、ごめん、怖がらせて」
「……ねえ」
「ん?」
「なんで目、逸らすの?」


唇をぎゅっと噛み締めれば腕が、身体がすっと開放されて、目を見開き後悔の色一色に染まっていた兄の表情は私の視線に気付くとにっこりいつものもの姿に変わる。でも一向に視線は交わらなくて。兄はただただ拳を握り締めて謝るだけ。もうトランプ飽きたよね、手早くトランプを片した兄は部屋に閉じこもってしまい夕飯の時間になって姉さんが呼ぶものの、出てこなかった。


(おにぎり、作ってきたんだけど)
(……)
(入るよ?)
(……ダメ)
(どうして?)
(顔、合わせられない)
(おどろいたよ、けど、ワザとじゃないんでしょ?)
(……ごめん、食欲、ないんだ)
(そっか、)
(名前、)
(ん?)
(なんでも、ない)
(そう?)
(ごめん、ごめん、俺、)
(そんな別にもう気にしてないよ)
(しばらくそっとしておいてくれないかな、ごめん)
(……わかった。とりあえず置いておくからお腹すいたら食べて)
(……うん、ありがとう)
(じゃ、)
(俺、お兄ちゃん失格だね)
(え?)
(自分を止められなくて、ごめん。名前は、俺の大切な妹だったはずなのに)
(……ねえ、泣いてるの?)
(……さあね)






!!!!!
シリーズ4話のボツ作
抑えられなくなっちゃった基山くん
怯える姿に我に返った基山くん
いや基山をマジにさせる気はなかったんだけどなあ
もう基山くんは妹としてなんか見ていません


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