彼のごつごつとした手のひらが好きだ。
私をぎゅっと抱きしめる際の彼の温もりが好きだ。
私の名前を呼ぶ甘い声が好きだ。
胸につっかえるくほどの愛情を惜しげもなく注いでくれる彼が好きだ。
柔らかな瞳が好きだ。
あげていくとキリがないくらい私の内側は彼で溢れかえっている。
「お前らバカップルすぎてついてけねーよ」
彼の話に長々と付き合わせたついさっき、こっちの身にもなれよと佐久間に言われた一言だ。話の半分も聞いちゃいなかった佐久間に言われるとはちょっと侵害だ。知ってるんだぞ、私の話を聞き流しながらお菓子のおまけに夢中になってたことくらい。だから彼女ができないんじゃないのー?と茶化せば佐久間のくせに手加減なしのでこピンを食らわしてきやがった。痛いんだけど。
それを見て爆笑する佐久間は尊敬する鬼道さんからも大好きなペンギンからもあと誰だかは秘密らしいけど意中の女の子からも嫌われるという報いを受けてしまえばいいと思うよ、私は。ま、佐久間の意中の女の子の見当はおおよそついているけど協力なんかしてやらないんだからね。だいたいあの子咲山くんが好きって言ってたんだから佐久間よ、残念だな。はっ。
「なーにニタニタしてんだよ、気持ち悪りぃな」
「あでっ、」
本日二度目の佐久間からのでこピンをまともに、それも同じ箇所に綺麗に食らいました。こつん、なんて可愛らしい音じゃなかった。ごつんって鳴ったよ、絶対に。
ひーひーと笑いこける佐久間にイラっとして反撃のチャンスを伺いながら拳を握ったところに仲いいな、とちょっと渋い顔をした源田くんがやってきた。妬いてくれてるのかな?今なら天にも昇れそうだ。
なんだか源田くんを見ていると佐久間の相手をする自分がバカらしく思えてくるから不思議だよね。どうやら口に出していたらしく、いやわざと出したんだけど、相手してやってんのは俺のほうだと佐久間の制裁が飛んできたのは言うまでもない。だから痛いってーの。
源田くんに叱られてしゅんとする佐久間にざまーみろと舌を突き出せばお菓子の箱が顔面にクリーンヒットした。言わずもがな佐久間だ。うん、源田くんにもっと怒られるといいよ。
「名字」
「ん?」
「その額、」
「ああ、ちょっと佐久間にね」
「そうか、」
「ちょっと源田!なんで全部俺が悪いみたいな目で睨んでくるんだよ!毎日毎日お前の惚気聞かされるこっちの身にもなれって」
「惚気、か」
「……おい源田、照れるところじゃねーぞ」
頬を赤らめる源田くんにぎゅっと抱きつけば源田くんは優しく撫でてくれた。俺の前でやめてくれ!とか見てるこっちが恥ずかしいんだよ!とかいろいろ佐久間がわめいていたような気がするけど源田くんが自分の世界に入り込みつつあることも手伝って、ここは源田くんを再優先させようと思う。いつもだけど。
お前ら俺のこと無視してんじゃねーよ!と声を荒げる佐久間を横目に前髪を掻き分ける。源田くんの目が優しく細められた。
「どうなってる?」
「赤くなってる」
「じゃあ、源田くんにちゅーでもして治してもらおうかな」
「え、」
「嫌だなあ、冗談に決まって、」
「なな、なんだ、じじ、冗談か」
「……源田くん、まじ可愛い」
「な、なあ佐久間、お俺、ど、どうすれば……!」
「いちいち俺に振るなよ!」
きょろきょろと視線をふらふらと泳がせる源田くんと目が合った。その、なんだ、としどろもどろになる源田くん。照れちゃって可愛いなあ、もう。かく言う私も顔が火照ってあついんだけど。
徐々に整った源田くんの顔が近づいてくる。額に源田くんの唇がゆっくりと降りてくる。じわじわと広がっていた痛みがじわじわと鎮まりはじめる。反対に熱がこみ上げてきた。とりあえず源田くんに抱きつこう。話はそれからだ。
そーんないい雰囲気をぶち壊すようにちゃちゃを入れたのは顔を引きつらせる佐久間で。いい加減にしろ!と怒鳴られた。ははん、うらやましいんだろう。そうだろう。サッカーボールが凄い勢いで飛んできたのは言うまでもない。もちろん源田くんがしっかりと受け止めていたけど。私を庇うようにして。
さすが源田くん。さすが帝国のゴールキーパー。さすが私の彼氏。惚れ直した。佐久間では正統派イケメンの源田くんには逆立ちしても届くまい。中身もイケメンだなんてこんなできた男の子、なかなか出会えないよ!声に出して褒めれば源田くんははにかんで、佐久間はいつも以上に腹立つツラしてるなとあからさまに私の方を向いて、あからさまに聞こえるように呟いたけど、今回だけは源田くんに免じて見逃してあげよう佐久間くんよ。それにしても、顔、あっついなあ。
「な、治ったか?」
「やばい源田くん好きすぎる!」
「俺も名字のこと好きだ」
「源田くん!」
「名字!」
「……お前ら自重しろよ」
!!!!!
源田くん登場の際は佐久間くんが不憫。佐久間嫌いじゃないよ!むしろ大好きだよ!で、バカップルってこれでいいの?