リュウジがサッカーを好きだから、とかそんなんじゃないけど、いやそんなんだけど、FFIをきっかけに最近サッカーに興味を持ち始めた。しかし問題は彼らのするサッカーはサッカーであってサッカーでない、というところだろうか。ドラゴンとかペンギンとかが飛び出したり炎を纏っていたり氷が舞っていたり。それはもう本当に次元を超えている。何度かこっそり自室で私にもなんか出ないか踏ん張ってみたけど何も出ずじまいで結局むなしさと悲しさと恥ずかしさといたたまれなさだけが残る結果となったのは言うまでもない。あの中に飛び込めば間違いなく命を落とす自信がある。まあ、そんな無謀なことはしないけど。
「名前ー?」
「んー?」
「なにしてんの?」
「雑誌読んでる」
「なんの?」
「サッカーの」
ソファにごろんとうつぶせて近くにあったサッカーの雑誌をぺらぺらと捲る。オフサイド?なにそれ。ううむ、結構ややこしいものだなあと顔をしかめたところにリュウジがジュースとコップを二つ持ってやってきた。名前も飲むでしょ、となんとも気の利くリュウジだ。身体を起こしてわざわざ注いでくれたそれに口をつけて喉を潤わせる。アップルか。空いたスペースにリュウジが腰を下ろす。私が今まで読んでいた雑誌に目を落としながら珍しいねとリュウジは注いだアップルジュースを飲み干した。
「でもなんでまた急に?」
「えー?秘密」
「ケチ」
「知りたい?」
「知りたい」
「どうしよっかな」
再び雑誌に目を通す私の隣で俺も何か読もうかなとリュウジもサッカーの雑誌を手に取っていた。お日さま園と名づけられたこの場所は私たちの居場所だ。一度はエイリア石だっけのせいで失われかけていたけど、またこうして過ごせることができるようになってよかったと思う。そういやエイリア石の騒動にリュウジもレーゼとかいう名前で巻き込まれていたっけなあと少し前に日本を騒がせた事件を思い出すかのようにリュウジの顔を見る。私はサッカー、というか運動そのものがイマイチだったのでもちろんのこと蚊帳の外状態、といったら語弊があるか。サポートとかそういった面で頑張っていた。けど、サッカーの知識は曖昧。今更ながらこれでよく今までサポートなんてしてこれたなと思う。リュウジが日本代表に選ばれたことだし応援のためにも本格的にサッカーについて学んでみようかな、なんて。
「……名前」
「何?」
「あんまり見つめられるとさ、その、」
「恥ずかしい?」
「まあ、うん」
困ったように頬を染めるリュウジが可愛らしくてびよんと跳ねて飛びつけばちょっと名前!とリュウジは慌てふためいていた。
「リュウジのためって言ったらどうする?」
「な、にを」
「お、照れてる照れてるかわいー!」
「な!からかったんだな!もう名前なんて知らないから」
ぷいっと拗ねてそっぽを向くリュウジにやっちゃったなあと頭を掻く。リュウジリュウジと名前を連呼しても無視を決め込まれる。でもこういったリュウジに対して嫌な気は起きない。リュウジが拗ねるのは別に珍しいことでもなんでもないし、なんだかんだでもう機嫌は直っている頃だろう。そして私がかまうのを待っているとかそんなところに決まっている。ちらちらと私の次の行動を伺うリュウジをあえて見なかったことにする。どうせすぐにリュウジのほうが耐え切れなくなって折れるんだし。いつものことと言ってしまえばそれまでだけど。
「ああ、またやってる」
「だれかと思えばヒロトじゃないか。代表入りおめでとう」
「ありがとう、ってもうそれ何回も聞いたけど」
「何回でも、言いたいんだよ」
ひょっこりとヒロトが顔を覗かせた。俺は俺は、と案の定自分から絡みにきたリュウジにもおめでとうを贈る。仲いいね、とヒロトは向かいのソファーに座り、持ってきたコップにアップルジュースを注ぐ。ついでに私のもよろしくとコップを差し出しておいた。
「テレビつけてもいいかい?」
「どうぞどうぞ」
「うーん、俺、邪魔しちゃった、かな」
「どうだろ」
「はは、緑川の顔には思いっきり邪魔だって書いてるけどね」
隣でぶうたれているリュウジがだって仕方ないだろ!とヒロトに向かって反論する。FFIが始まったらしばらく名前と会えなくなるし!リュウジの言葉に愛されてるねと私ににやけ顔を向けるヒロトがむかついたので手元にあったサッカー雑誌を投げれば見事に命中した。寂しいのは私だって同じだ。
「で、何してたの?」
「え?サッカーのルール覚えようと思ってさ、」
「サッカー?緑川に教えてもらえば?」
「それじゃあ意味がないんだよ」
「ああ、なるほど」
そういうことね、と納得したヒロトは愛されてるねと今度はリュウジににやけ顔を向けていたけど意味を理解できていないリュウジはなんだよ、と顔をしかめるばかり。そこがまた可愛いんだけどね。
「俺だけ仲間はずれなわけ?」
口を尖らせるリュウジにリュウジがFFIに出るからだよとそっと耳打つ。それでもわからないという表情を浮かべるリュウジにだから、とため息をついた。仕方ない、言うか。
「ほら、応援するからにはルールを知ってからにしたいし」
「応援?」
「そうリュウジの応援」
「俺のために?」
「リュウジのために」
「俺のために、わざわざ?」
「だってリュウジのためだからね」
リュウジのためだったらなんでもできるよ、とヒロトが注いでくれたアップルジュースを照れを隠すように味わっているとリュウジが名前!と突然抱きついてきたので気管に入って、思いっきりむせた。
「俺も名前のためならなんでもできるよ!」
ぎゅうぎゅうと私にくっつくリュウジにちゃんと観てるからねと声を掛ける私とリュウジを見比べながらせんべいをかじるヒロトはいつか名前ちゃんみたいな彼女ができたらいいなと笑っていた。
!!!!!
うちの緑川くんは甘えたになるみたい。