士郎の内側に"俺"という存在が生まれてからどれくらいの時間が経過したんだろう。俺は士郎として、そしてアツヤとして名前のことを好きになった。士郎に後押しされて決死の覚悟で名前に想いを伝えて、晴れて名前の恋人という権利を俺は手に入れた。今だから正直に言うが、名前にいい返事をもらえるとは思ってなかったし、振られること前提での告白で、私もアツヤのこと好きだよと恥ずかしそうに笑う名前に何度も何度も訊き直したっけ。夢じゃないことを確かめるために頬を抓りすぎて赤くなって士郎に怒られたこともあったっけ。



「もしもし、」

アツヤ?どうしたの、電話なんかかけてきて。

「……」

アツヤ?もしもーし



宇宙人とのサッカーでの闘いが始まる中、俺たちはイナズマキャラバンにスカウトされて参加し全国を飛び回っていた。そして気付いたことがある。俺、アツヤという存在はもうすぐ必要なくなるときがすぐそこに迫っているということを。確信があるわけじゃない。けど自分が消えることに対しての底知れぬ不安と孤独感に最近異様に付きまとわれる。アツヤという存在が消滅する、そんなことこれまで考えたこともなかったし考えようともしなかった。いい意味でも悪い意味でも士郎はキャラバンに参加することによって成長し、変わってきているように感じる。そう、俺という存在が必要なくなるくらいに。もともと俺は存在していいものじゃない。俺は士郎によって創り出されたかりそめの人格だ。士郎に俺が必要なくなる日、すなわち俺が二度目の死を経験する瞬間。士郎は、心配ない。俺がいなくても士郎ならいい仲間に囲まれてうまくやっていける。気がかりは名前だけだ。もう俺が俺として名前に触れることはきっと、ない。抱きしめることも笑いあうことも名前の名前を呼ぶことも一緒に帰ることもケンカすることも、ない。こんなことになるのなら、名前に気持ちなんて伝えなきゃよかった。残されるものの寂しさは士郎を通じて身にしみているから余計にそう思う。名前のこれからを思うと胸が痛んだ。



「……名前」

どうしたの?アツヤ、なんか変だよ?

「……ごめん、名前」

なにが?

「俺はいなくなるかもしれない」

……え?

「士郎の中からアツヤという存在が消える日が迫ってんだ」

……うん

「俺は多分もう名前に会えないと思う」

……うん、

「だから、その、俺のことは忘れてほしい」



名前の声が途切れた。無言が続く。嫌だよ、ぼそりと受話器の向こうで名前が呟いた。例えアツヤが消えたとしても私はアツヤのことを忘れるつもりはない、迷いがなく真っ直ぐで強い名前の声に少し戸惑った。どうして。俺とのこれまでを帳消しにしたほうが名前にとってもいいと思うのに。私はアツヤとの日々をなかったことにしたくないしするつもりもない、名前の少し怒った声が届いた。俺だって名前には俺との日々を忘れてほしくないし覚えておいてほしいとは思っている。でも。……いつだったけ、女の子は僕たち男が思っているよりもずっと強い生き物なんだよ、そう士郎が俺に言ってきたような気がする。名前もそうなんだろうか。


電話を切る間際の名前の言葉が脳に刻み込まれて離れなくなった。




「どんな結末が待っていようと、私は後悔なんてしない」


「アツヤと出会えて、アツヤを好きになって、アツヤと付き合うことができてよかったってそう思う」


「ありがとう」




私の名前を呼んで、頼まれて改めて呼ぶ名前の名に胸がざわついて鼻の奥がつんとした。




!!!!!
意味わからんなった



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -