「おはよー」
「おはよう、山田くん」


朝、登校していると隣の席の山田くんと偶然出くわした。あいさつをする私の視界の片隅には兄を取り押さえる兄の友人と必死にそれから逃れようと暴れる兄。他人のふり、他人のふり。見なかったことにしよう。一緒に行かなきゃダメだ、嫌だ!とダダをこねる兄を放っておくのにはじめのころは罪悪感とかを覚えたけれど最近ではそれはもうまったくだ。兄と登校するといいことなんて一つもない。友達に会ってもろくに話すことができない。というのも俺といるのに他の子と話しちゃダメ!なんて一度言い出したら聞かないし、下手したら拗ねられる。お前は束縛の激しい彼氏か、なんてツッコミたくもなるくらい面倒なんだ。


「そういえば、今日って数学の課題、提出だったよな」
「ああ、そんなこと言ってたような気もする」
「やってきた?」


もちろん、そう返事をしようとした私と山田くんとの間にずいっと押し入ってきたのは、なにを隠すことがあるだろう、兄だった。兄はがっちりと私に絡みつくと山田くんを威嚇しはじめた。その後ろから兄の友人が走ってくるのが見えた。兄がいつも迷惑かけてすみません。


「えっと、お兄さん、ですよね」
「だれだか知らないけど人の恋人にちょっかいをだすような人にお兄さんなんて呼ばれたくないね!」
「恋人じゃなくて妹ね、妹」
「ちょっと!名前は黙っててよ!」
「大変だね、名前ちゃん」
「でしょう?いつもいつも苦労してるんだ」
「名前ちゃん、だって?ちょっとそこの!名前ちゃんなんて呼ぶ許可、俺は出してないんだけど!俺の許可なく俺の名前の名前を呼んでいいと思ってるの?よくないって習わなかった?」
「……」
「あ、すみません」
「まったくもう!俺の名前の半径1メートル以内に近づかないで!」
「近づかないで、って俺、妹さんの隣の席なんですけど」
「え!冗談でしょ、名前」
「事実です」
「もう俺今日から名前と同じクラスになる!」
「いや無理でしょ」


兄が一方的に山田くんに喧嘩を吹っかけていると追いついた兄の友人が兄を私から引き剥がしにかかるけれどびくともしない。兄がいつも迷惑をおかけしています、南雲さんがまったくだ、と顔をしかめるのになんだかいたたまれなくなった。隣には一応涼野さんもいる。目が合ったので会釈すれば、かわいそうなものを見る目を向けられた。すごく悲しいのはなぜだろう。


「お前に彼氏なんてものができた日には大変だろうな」
「想像できるんでやめてください」
「彼氏?今彼氏って言わなかった?名前に彼氏?俺は認めない!ちょっと、晴矢!詳しく説明して!」
「いや別に例えばの話をしてただけで」
「そうだよね、よかったあ。もし名前に彼氏なんていたら俺、寝込んじゃうや」
「ヒロトなら本当に寝込みそうだよな」


俺の勘違いでよかったよかったと一息つく兄に手を握られた。え?


「でもね?俺と名前の登校を邪魔するヤツは許さないよ!」
「はあ?」
「いこう名前!」
「へ?」


ぐいんと引かれた手のなんだかおかしい繋ぎ方に目を向ければ俗に言う恋人つなぎなるもので、これで俺たち恋人同士に見えるかな!なんて嬉しそうな声ではしゃぐ兄にそれはないよとため息をついた。私たちが兄妹なんて学校に行けば皆が皆知っていることなのに。振りほどこうとした。無理だった。


「ねえ名前」
「なによ」
「名前は俺だけのものだよ」
「はあ?」
「だからどこにもいかないでね。お嫁になんていかせないから」
「いやそれは、」
「俺は許さないよ!」
「許さない、って言われてもさあ、」
「名前はずっとずーっと俺と一緒なんだから!俺がそう決めたの!」


ね、と促してくる兄。ずっと一緒なんて無理に決まってるじゃん、と返せば無理なんかじゃないよ!と兄は笑う。ちなみに根拠はないらしい。


「俺は名前だけのものだよ」
「え、いらな、」
「いらない、なんて言うとこの手、離さないから」
「……」
「名前名前」
「ん?」
「ちゅーしよっか」
「はあああっ?」
「嘘だよ、うーそ。あ、でも名前がしたいなら俺は別に」
「結構です」
「えー、つまんない」
「はあ、」
「ほらちゅー」
「しません」
「あ、俺の将来の夢、教えてあげようか?」
「いい」
「教えてあげるね!」
「……」
「名前をお嫁さんにすることかな!」
「……それは叶いそうにない夢だね」
「さっそく今夜から子作りに励もうね」
「ふざけるな」


軽やかにスキップをし始めた兄。これからが、酷く憂鬱です。


(昨日、俺告白されたんだ)
(ふうん)
(心配しなくてもちゃんと断ってるからね!)
(別に心配なんてしてないけど)
(俺は名前と結婚する約束してるからごめんね、って)
(そう。……え?)
(名前も、もし告白されたりしたら私はヒロトと付き合ってるから無理です、ってしっかり断るんだよ)
(……)
(でもさ、名前に告白するなんて命知らずもいいところだよね)
(……)
(え、名前、もしかして、なんてことない、よね……?)
(……)
(誰!名前、お兄ちゃんに教えなさい!)
(嫌だよ)
(あああああ!なんてことだあああっ!俺のっ俺の名前によくも!)
(断ったけどね)
(ならいいけど。……いいややっぱりよくない!血祭りに……!)






!!!!!
基山は本気です
タイトルとの関連がうすーい




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