「名前、おはよう」
「ああ、うん、おはよ」


朝食のトーストをかじっていると兄があくびを噛み殺しながら起きてきた。名前が冷たい!なんて飛びついてこようとした兄を華麗に避けるけどさすが私の兄。あきらめるということを知らない兄が再びめげずに飛びついてこようとするのを止めてくれたのは私の頼れる姉だった。つまりは毎朝のお約束。


「名前ジャム取って」
「ん」
「名前」
「なに?」
「眠そうだね」
「うん」
「名前名前!」
「なに」
「いい天気だね」
「……」
「……」
「……」
「姉さん名前がしゃべってくれない!」
「どうでもいいから黙って食べなさい」
「名前名前!」
「だからなに」
「好きだよ名前」
「ああそう」
「姉さん名前が!名前が好きって言ってくれない!」
「はいはい好き好き」
「気持ちがこもってない!」


朝食の次は学校へ行くための支度だ。ブラウスの袖に腕を通し一番上のボタンを留めているとバンとノックも声かけもなく扉が勢いよく開く。ちなみに私の部屋だ。


「名前!」
「今着替えてるんだけど」
「うん、見たらわかるよ!」
「なら出ていこうよ」
「お兄ちゃんとコミュニケーション取ろう」
「取ってる取ってる」
「取ってない!最近名前冷たくない?」
「自分の普段の行いを振り返って考えてみなよ」
「んー、わかんないな」
「……忙しいから相手してる場合じゃないんだけど」


それよりもコミュニケーションコミュニケーション!ブラウスの一番下のボタンを留め終わるのと兄が背中に抱きついてくるのとどっちが早かっただろう。名前名前と妹の名を連呼しながら背中に頬ずりをしているだらんと緩みきった表情のこれは本当に私の兄なのだろうか。兄の仮面をかぶったニセモノなんじゃないのだろうか。


「名前」
「……」
「名前」
「いいかげん離してくれないと着替えられないんだけど」
「ねえ名前、兄には妹の成長を知る権利があると思うんだけど」
「うん、で?」


意味がわからないと振り向けばにやりとほくそ笑む兄。嫌な予感しかしない。むぎゅりと胸部がわし掴まれる感触に視線を移せば兄の手のひらにしっかりと捉えられていた。えへへと笑う兄に羞恥やら怒りやらがこみ上げてきて肘で突けば溝甥にに入ったなんてお腹を押さえて蹲り、悶えていた。


「今日こそは成敗してくれる!」
「待って!待って名前!」
「待てるわけがないでしょうが!」
「ほら、スキンシップ!兄と妹のスキンシップだよ!」
「スキンシップ?スキンシップなんて言葉で片付けようとするな」


枕を顔面に食らった兄はもうしないよ!なんて言ってはいたもののいまいち信用ができない。というのももうしないよ!なんて一体何回聞いたことか。今日こそは許さない!なんて思っていても最後はなんだかんだで許してしまう。結局は家族。気持ち悪いと思うことはあるけれど嫌いになんてなれない。それを知ってか知らずか、ねえ名前、兄が私を呼んだ。おいそこにやにやするな。


「なによ」
「挟めるね!」
「……」
「なにその汚物を見るような目」
「……」
「なにを挟むかなんて俺、言ってないじゃーん。なに想像したの?ね、ね、なに想像したの?」
「……出て行け」


手元にあったパジャマを投げつけるまであと三秒。それが失敗だと後悔するまであと五秒。


「名前のニオイがする!」
「……!返して!」
「嫌だよ名前がくれたんだ、返さないよ!」
「あげるなんて一言も言ってない!」
「俺はそうと受け取ったもんね!」
「姉さん!姉さん!」
「あ、名前!姉さん呼ぶなんて卑怯だぞ!」
「黙ってろ」


兄がパジャマに鼻を押し付けなんか興奮している現実。ひょっとしたらまだ私は夢を見ているのかもしれない、なんてぼうっとしてたらパジャマが拉致されそうになったのでとりあえず姉さん!と叫んでおいた。兄は血相を変えてあわあわと私のパジャマを抱えて逃亡を図るもののそれよりもいくぶんか早い姉の登場で失敗に終わる。置いていけばいいのに。


「どうした、名前!またなにかされたのか」
「ね、姉さん!な、なんでもないんだ!本当だよ!」
「ヒロトには訊いてないわ」
「ね、名前!なにもないよね?」
「……姉さん、パジャマが奪われたんだ」


兄の名前を呼ぶ姉さんの声は低くて、青い顔で言い訳しながらもパジャマを死守しようと必死な兄だったけど結局は姉さんの勝利。パジャマは無事帰還。位置づけは姉さんが一番上だから当たり前と言えば当たり前だろう。兄は姉さんに一週間私に近づくの禁止と命令され、それだけは勘弁してくださいと土下座していた。


(姉さんお願い!)
(ダメなものはダメ。反省しなさい)
(だって、)
(だってじゃない!)
(だって姉さん名前と一緒じゃなきゃ俺、死んじゃう!)
(死なない死なない)
(死ぬの!)
(アンタなら大丈夫よ)
(名前からも、ね、ね!)
(そっちのほうが静かだしいいかもしれないな)
(……俺、もうダメかもしれない)






!!!!!
基山ってきっと妹とかいたら妹大好きだよね
私は瞳子姉さんが大好きです



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -