「退、男女が付き合うって、どういうことだと思う?」


 突拍子もないことを言うのは彼女の昔からの癖だ。時間なんて関係なく、いつも独りでぼんやりと空想を巡らせているかと思いきや、ふとした瞬間に先程のような、極めて回答に困る質問を投げかけてくる。これがまた浅いようで深い。最近だと人類の行く末だとか宇宙の膨張についてだとか、サイエンスの世界を垣間見るような質問ばかりだったのに、今日は少し気分が変わったのだろうか。
 中庭のベンチでだれていた俺もまたいつものようにうーん、と考えて、一番最初に浮かんだ答えを口にした。


「契約、かな」
「契約?」
「あなたのことが好きで独占したいんだけど、良いですかっていう」
「うん」
「…ちょっと難しいね」


 友達という一線を越えて良い部分もそうでない部分も理解し合いましょう、時には行動に制限がつくかもしれません、ついでに性的な関係も結びましょう、良ければここにサインを……付き合う、ってそういうもんじゃないのかな、単純かもしれないけど。でも世の中にはその括りから漏れるような様々な男女の付き合いってのもあるだろうし、一概にはどうとも言い切れない。考えれば考えるほど謎は深まるばかりだ。むず痒い。まぁ俺にそんな経験がないってのも大きいけど。


 風が吹いて彼女の髪と制服のスカートが踊る。ここ最近、ずっと傍で見守ってきた女の子の表情や仕草が「女の人」になり始めていることに、何とも形容し難い感情を抱いていることは事実だ。呼吸をしているはずなのに脳に酸素が回らない、一喜一憂が激しくて胸がずしりと重い感じの、もやっとした感情。嫌な感じの時もあれば、妙に心地良い時もあって…「これ」が何なのかも、謎だ。あぁ痒い痒い。世の中にはこういうのばかりが転がっている気がしてならない。


「あのね、なんとなくなんだけど」
「うん、なに?」
「私は、付き合うって仮採用じゃないかなと思うの。退の言うようなことをして、相手と自分がしっくり合うか確かめる大切な時間…その先にあるものが契約かな、なんて」


 その後、彼女は首を傾げて、経験がないから何とも言えないや、と恥ずかしげに笑ってペットボトルの紅茶を飲んだ。赤いくちびるが濡れて、あ、まただ、言葉にならないこの気持ち。


「…じゃあさ、試しに俺のこと仮採用してみたらいいじゃん」


 なんて言えるわけもなく、俺は悶々としたまま紙パックのストローを咥えて、真っ青な空を仰いだ。遠くでチャイムが鳴った気がした。



チャイルドプレイ(2011/10/17)

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