坂田先生が結婚する。職員室に祝福の言葉が飛び交う中にひとり、足場が抜け落ちてしまったかのような目眩に陥った。照れるように頭を掻く坂田先生の手、私を撫でてくれる優しい手。その左手には、見たことも無いくらい綺麗な指輪が嵌められていた。ふと視線を落として自分の手を見る。そこには大切な約束があるはず。坂田先生との、これからの約束が。だって私たち、あんなに触れ合って、あんなに求め合ったじゃないですか。それなのに、なぜ。何度見直しても私の左手には誰との約束も存在しない。近付いたと思っていたのに。やっと、触れたと思っていたのに。私の憧れていたあの綺麗な手は、私の手と繋がれてはいなかった。

 坂田先生は遠くから私を見て小さく笑った。その笑みにどんな意味が込められているのか、今となっては知る術もない。



 適当な作り話だったらどんなに良かったか。春が来たら、坂田先生は他の高校に赴任してしまう。奥さんになった女の人と二人で、どこか遠くで暮らす。空に吐いた息が染まって消えた。私だけこのまま、世界の片隅で幸せの余韻に溺れたまま置いてけぼり。



やさしくて
ひどいひと
さよならね
(2017/06/25)

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -