1日後には早々と公認夫婦 | ナノ

1日後には早々と公認夫婦



「み、みみみみみ御幸!!アンタ一体何者!?」
「何者って…、…今は、お前の嫁?あ、旦那?」
「…っじゃなくて!何だよ、あれ!お前一体何なんだよ!」


こそこそと、ばれないように叫ぶ。御幸の服の裾を引っ張って見上げるのに、当の本人はシラっとしたまま。
声をあげずに大声を上げるって器用なワザをやってのける俺を華麗にスルーする御幸は、今日も無駄にイケメンだ。


「…いいでしょう、貴方達二人の結婚を認めましょう。」



そんな御幸と俺を見比べながら、あの堅物のばあちゃんが、満足そうに笑うところなんて、俺、初めて見たんですけど。


「Grazie. Nonna. Noi sinceramente desideriamo esprimere la nostra gratitudine.」


にこりと笑った御幸の口から放たれる言葉は、先ほど聴いたのとまた違う言語。


だから!こいつは一体何者だ!?















「英語と中国語、あとイタリア語とフランス語、ドイツ語もいける。スペイン語は今勉強中だから、ヒアリングとスピーキングは出来る。」
「…何お前、言語マスターかなんか…?」
「いんや、趣味。ほら、語学留学したって言ったじゃん?」
「なんつーこうしょーな趣味!!」
「いいじゃん、別に。ほら、こういうときに役立つだろ?」
「こんな状況なかなかないと思うけどな…!」






あれから。
二人して、ばあちゃんのところに挨拶に行ったのが、次の日の夕方のこと。

俺の卒業式が終わるのを待っててくれていた御幸と一緒に家に帰って、丁度俺の期限の日ってことで家にいたばあちゃんが俺を呼び出した席に御幸を連れて行って、結婚の報告をした。
さすがに本当に俺が誰かを連れてくるとは思ってなかったみたいで驚いてたけど、その後は御幸の審査が始まった。
家柄とか、今の仕事とかにはピクピク眉を動かしてたけど(そりゃそうだ。だって今の御幸は無職で、身寄りは俺すら不明。)、その後御幸が見せた驚くべき才能に、ばあちゃんだけじゃなくて俺まで驚いた。

『御幸さん、貴方のご趣味や特技は?』
『人に胸を張れるようなことはあまり無いんですが。そうですね…、言語の勉強は少し熱心にしていました。』

その言葉通り、御幸は示した全ての言語で流暢な受け答えを見せた。(ばあちゃんの秘書が3人いて、その3人が別々の言語を喋るのに、御幸は全部対応してた。)
それに満足したのか、さっきのばあちゃんの言葉。

しかもどうやら、御幸は相当頭がいいみたい。
それに、ばあちゃんって結構な威圧感発してて、俺でも今でもたまにビクビクするのに、全く物怖じしてる感じもない。
顔だけじゃなくて頭脳明晰で度胸もあるとか…本当羨ましすぎるぜ。御幸さん。ただのニートのくせに。

ちなみに俺は、小さい頃から専属で家庭教師もついてんのに、頭は決して良くはない。…が、決して悪くもない!(と自分では思ってる。)


「…人前に出しても恥ずかしくはないくらいの教養はある人と見ました。」
「お褒めに預かり光栄です。」
「青道の…先輩だったかしら。」
「はい。栄純君の1つ上になります。」
「結婚すれば、貴方の身はこれから当家が全ての権利を持つことになりますが、それは覚悟の上ということでいいのですね?」
「…はい。」
「…いいでしょう。」


チラリ。
ばあちゃんの視線が御幸から俺に移る。
ドキッと心臓が跳ねたけど、何とか誤魔化すように正座した膝で握る拳に力を込めた。


「まさか貴方が本気で相手を選んでくるとは思いませんでした。」
「ふ、ふはは!俺だってやる時はやる男なんだよ!」
「…約束は約束です。連れてきた相手との結婚は認めてあげましょう。最低条件は守っているみたいですから。」
「お、おう…。」
「もう下がって宜しい。二人は今日から家の離れを二人でお使いなさい。」


相変わらず感情の読めないばあちゃんの言葉でピシャリと審査会は幕を閉じ、俺と御幸は揃って部屋から追い出されたのだった。









部屋を出た俺は、当然御幸に興奮気味のまま質問の嵐。

確かに昨日、語学留学してたって聞いたけどさ!
普通、それって、英語だけとか思うじゃん!つーか留学してたからってそんなにペラペラ話せるとか想像しねぇじゃん!?
一体何者だよお前、って問い詰めても、帰ってくる言葉は、徹底して「留学してたから。」の一言。

…りゅ、留学ってそんなすげぇの…?

疑いの目で、じとーっと御幸を見ていれば、ははっと軽い笑みと共に降って来るどこか謎めいた眼差し。
本当この人って…ただのニート?ちょっといろいろと、出来すぎてねぇ?
分からないことが多すぎてちょっとだけ心にモヤモヤが走った、けど。

(まぁ…昨日会ったばっかだし、知らねぇことばっかでもそんな不思議でも…ねー…か?)


「…アンタって、実はすげー人…?」
「んなことねーって。俺からすれば、沢村のほうが充分すげーと思うけど。」


こんな超がつくほど金持ちで、今時漫画でも見たことねぇくらいコテコテのお祖母さんがいて、その上政略結婚から逃れるために結婚相手を探して奔走、なんて。今時少女漫画でもありえない、と言われてしまえば、俺が返せる言葉は無かった。



「とりあえず、俺は今日から寝る場所があることがスゲー嬉しい。」
「そういえば、アンタ昨日はどこに止まってたんだよ?」
「え?…………………公園?」
「何その間。」
「だーって、沢村くんみたいなお金持ちの人に言うの恥ずかしいじゃん。」
「…ふうん。つか、言ってくれたら泊めてやったのに…。」
「ははっ、優しいのな、沢村くん。」
「なっ…!…だっ、だって、一応結婚…する、んだし!」


からかわれるみたいな言葉に、なんだか俺の方が顔を真っ赤にさせてしまった。
ニヤニヤっていうか、ニコニコっていうか、なんかよく分からない笑顔をはっつけた御幸さんは、到底昨日、公園で一夜を明かした人には見えなくて。


…謎だ。謎過ぎる…。


少なくとも、これからの多くの時間を一緒に過ごす人。
昨日は、「この人なら大丈夫!」と思ってた俺の心の中に少しだけ浮かんだ疑念を振り払うようにしっかりと御幸さんを見つめたら、綺麗な顔がそれはもう魅力的な笑顔を浮かべてくれた。
その笑みに、ドキリと小さく心臓が鳴る。

(は?え?何?ドキ?)




そんなこんなで、いろんな意味で多くの問題を含みながらも、18歳春、俺の高校卒業と同時に俺らの結婚生活はスタートした。









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