ワケなんて考えるまでもなく |
*大学1年生秋 「窮屈じゃねぇ?」 「ふお?」 口に突っ込んだパンが、声を出した瞬間に勢いよく飛び出して、声をかけた友人が「うお、汚ねぇ!!」とそれはもうオーバーリアクションで椅子と共に後ずさった。 その反応に、素晴らしい反射神経だと感心する俺を見ながら、食いながら話すなと思いっきり睨みつきてきた友人にへらりと笑みを返す。 ビニール袋から顔を出す大きめのパンに大口で被りついて、そのままもぐもぐと口を動かして押し込むと、半分くらい食べた辺りで漸く顔を上げた。 「…窮屈って、なにが?」 問いかければ、幼馴染と同居してんだろ?と返って来る。ああ、なるほど。そのことか。と思って、首を傾げながらもう一口パンをがぶり。また喋ろうと思ったら思いっきり避けられた。…もう飛ばさねーっつの。 「えー?まぁそりゃ、一人よりはいろいろ制限されるかもしんねーけど。」 「俺ぜってぇ無理だわ。ルームシェアとか。そもそも自分の生活スペースに他人がいんのってどうなのよ。」 「でも家事とか半分だし。鍵忘れても部屋開けて貰えるし、家賃光熱費その他もろもろ半分だぜ?」 「まぁそうかもしんねーけどさぁ…。」 納得行かないとばかりに言葉を濁す友人を見ながら、またパンを一口。 「なんかさ、よく飽きねーよなと思って。」 (…飽きる?) 告げられた言葉を頭の中で判読しながら、やっぱり俺はもう一度小さく首を傾げた。 「まぁ、そんなことがあったわけだ。」 大学から帰ると、今日の食事当番の一也が既にキッチンに立って美味そうな匂いを部屋の中に充満させてた。腰に巻いてる黒いエプロンは、同居を始めた時に買ったやつと同じデザインだけど、実は二代目で、一代目は同居序盤に二人で四苦八苦しながら料理をしてるときに色々あって殉職された。 基本的に野球ばっかやってた俺も一也も料理なんか経験無くて、それはもう苦労したもんだけど、今ではこうやって普通に食えるもんが出てくる。 それどころか、一也の妙な凝り性なところが出て、最近じゃ卵焼きすら満足に作れなかった奴が、包丁で切り目いれるタイプのレストランみてぇなオムライス作ってみせたりするんだから、…なんかいろいろと複雑な俺だったり。(俺だって人並みのものは作れるけども!)カレールーを使ったカレーが料理か否かで討論になったのも記憶に新しい。 「窮屈ねぇ…。」 「一也は窮屈だと思う?」 「別に、思ったこともねぇけど。」 「だよなぁ。」 「だって栄純だし。」 「…だよなぁ。」 キッチンと往復する一也が目の前に並べていく料理を見ながら、テレビの真正面を陣取る俺。 完全に亭主関白宜しくぼんやりしてたんだけど、せめて箸くらい並べるのは手伝ってやろうと思って席を立ったら、ついでにキッチンでご飯茶碗も渡された。…入れろってことですね。 炊飯器に炊きつけられたご飯をざっくり盛りつけながら、二人分の茶碗と箸を両手で器用に持ち運ぶ。落とすなよって声にとりあえず返事だけ返して、ちょっとぐらぐらと危ないバランスながらも運び終える。 その瞬間にふと、一人暮らしだったら別にこういうの、注意されることもねぇんだろうなーって思ったりもしたけど、一也が俺がすることにいちいち過保護だったりうざいくらい絡んで来たりすんのは昔からだから、もうそんなに気になんねぇし、一也は理不尽なことで注意したり怒ったりはしないってのも分かってるから、素直に聞き分けられるというか。 そういえば昔から、「アンタは私の言うことより一也君の言うことの方がよくきくのよねぇ。」なんて母親に言われるくらいだったし。(まぁそれ以上に俺も一也もじいちゃんには頭があがんねぇわけだけど。) 「すげぇずっと一緒にいたから、よくわかんねー。」 「ま、栄純が手がかかんのはいつものことだしな。」 「…一也の小言がうるせぇのもいつものことだしな。」 「言わせてんのは、お前。」 「それ言うなら、お前は気にし過ぎなんだよ。」 コトンと全部の皿をテーブルに並べ終えた一也が横に座ってから、いただきますと端に手を伸ばす。お互いサークルとか付き合いとかで合わない時以外はこうやって一緒に飯を食うのは何となく暗黙の了解。 そういえば、そういうときの飯は何となく味気ない。 (ほら、一人暮らしだったら飯だってつまんねーじゃん。うん。) これが美味いとか、これは失敗だとか。 一人でぼんやりテレビ見て食うより、そういうことでギャーギャー騒ぐ食卓の方がいい。まぁそれは、ずっと寮暮らしでそんな環境の方が慣れてるからで、他の人はそうも思わないのかもしれないけど。 やっぱり俺は一也と居る方がいいな、とぼんやり考える。 一人でそんなこと考えてたら、横で同じように箸を進めてた一也がふと小さく呟いた。 「大体、栄純と俺はただの幼馴染、…ってわけじゃねぇだろ。」 その内容が、…あまりにも、うん、あまりにも、だったので一瞬だけぴたりと箸が止まった。けど、すぐに何事もなかったみたいに、おかずをかきこむ。 「…、まぁ。」 「…何その反応。」 「別に。…つーかお前も自分で言って照れんなよ。」 「照れてねぇし。」 「うそつけ。」 「嘘じゃねぇよ。」 「ぜってぇ嘘。」 ふと上げた視線の先にあった一也の顔も微妙な顔をしてたから、ちょっと馬鹿にするようにいってやれば、案の定ムッとした一也が少しだけむきになって言葉を返して来た。 そこから始まる小さな言い争いなんていつものこと。何度か言葉を投げ合った後、けれどすぐに自然に収束する。それもいつものこと。 窮屈、って言葉はピンと来ねぇけど、確かにいろんなことは自然と、意識してないところでも制限されてんだとは、思う。 けど、そんなの気にならないくらいには、一緒にいる方がずっと自然なわけで。つまりそれって、 「まぁ多分俺、それくらい一也のこと好きってことなんじゃねーのかな、とか思ったわけ。」 話の流れをぶった切って、今日の結論を口に出したら、それはもう盛大に一也が噴き出した後に咳き込んだ。 おおお…、なんつー昼間の俺のデジャヴ。 だけど、俺より随分スマートに手で押さえこんでる辺り抜かり無い。俺はあんなに友達から批難の悲鳴を浴びたのに。 「お前って、なんでそんなボール球から攻めてくるわけ?」 「一也そういうの好きじゃん。」 「あー…ったく、…止められなかったらどうしてくれんの。」 「どんな球でも受け止めてくれるっていう一也への信頼。」 へらへら笑いながら、絶品の煮物に箸を伸ばす。 笑顔の俺に比べてどこかひきつった顔の一也に、してやったりだとなんかいい気分になってたら、横で小さくため息が聞こえた。 「…ハイハイ、参りました。」 そう言って同じく煮物に箸を伸ばす一也を見ながら、口に放りこんだ里芋をもごもごさせながら、そういえば、とあることを思い出す。 「あ!好きって、フレンドじゃなくてラブの方だからな!」 そう思って付け加えた瞬間に、今度こそ流石の一也も思いっきり噴き出した。 「…っ、…、フレンドじゃなくてそこはライクじゃねぇの…?」 「あ、そか。間違えた。」 「…お前ってホント、」 ばっかじゃねぇの。 そう言われた言葉があまりにも柔らかかったから、俺はまた小さく笑って、それはもう絶妙に美味い煮物と一緒に口の中に全部呑みこんだ。 (ほら、だってこんなおもしれーのに、飽きるなんてあるわけねーよ。) 昼間俺にそんなことをいってきた友人に向けて心の中で反論しながら、もう一度並ぶ皿へと箸を滑らせて、穏やかな食卓に一人で小さく笑みを零した。 *** キリ番12000、あーち様に捧げます、同級生パロの御沢です。 まず…本当に…遅くなって申し訳ありませんでした…!あわあわ…!! 本当に仕事が遅くてすみませんでした…!地面が擦り切れるほど額ゴシゴシさせて頂きたいと思います…!あわわ…! 内容は相変わらず砂糖吐きそうなほど糖分120パーセントの同級生パロの二人でし、た! なんてことなの。どの小説よりもほのぼのなのにラブラブだなんて…(がたがた プロポーズ紛いなことを御幸がしたときに、「好きって言わなかったのはわざとですよね」と言って下さったあーち様の言葉が嬉しかったので、今回は逆に凄いナチュラルに栄純に一也好きだー!と言わせてみました← 同級生パロの一也君があまりにもヘタリスト過ぎてもうどうにも…! でもきっとやる時はやる子です。でもいつその力を見せてくれるんだろう(真顔) 少しでもあーち様に楽しんで頂けたら幸いです。 本当に遅くなって申し訳ありませんでした…! 拙いものですが、お納め下さいませ…! 24時間体制で書きなおし等承りますので、お気軽にお申し付け下さい。 この度はキリリク本当にありがとうございました! 同級生パロを書くことが出来て嬉しいですえへへ(´∀`*) また遊びに来て頂けると嬉しいです!ありがとうございましたー!もう!大好きです! [←] |