メランコリック・ラバー | ナノ

メランコリック・ラバー


*高校3年生春



例えば、自分の顔を一生見ることが出来ないのと同じように。
例えば、纏う空気を当たり前のものだと感じることすらないのと同じように。

意識しないけど、当たり前にあるもの。
意識しないけど、何よりも必要なもの。

それはとても自然なことで、そして今までもこれからもずっと変わらないものだと思ってた。そして今もそう思う。



それくらい、俺にとって一也の存在は絶対に変わらない唯一のものだから、だからそれは本当にそれ以外の何でも無くて、だから。

その関係に、俺は甘えてた。


「…っ、ごめん…!」


なんだ、ろう。
横をすり抜けてく一也の顔が見れなかった。通り過ぎていく時の風だけが頬を撫ぜる。ふわっと耳の横の髪が揺れた。

(…なんで、謝るんだ…?)

ずっと一緒にいたはずなのに、それは初めて見る顔だった。
困ったような後悔したような、なんだか泣きそうな。いつでもむかつくくらい余裕を顔に貼り付けて俺をバカにしてくる幼なじみの姿はどこにもなくて、残ったのは呆然と机に座り込む俺と、じわりとほのかに残る熱だけだった。

ああ、今追いかけないと何か大切なものを無くしてしまいそうな気がする。
それは予感じゃなくて確信だった。








---

今日は珍しく部活が休みで、そのまま寮に帰るのも何だから、自主練でも一緒にしようと一也を誘ったのは同じ日の昼休みのこと。(あわよくば球受けて貰いたいとか思ったりして。)
一也のクラスは遠いから、実は放課中に一也に会う機会は案外少なくて、昼休みに一也が飯食いに俺のクラスに来る時くらいしか無い。
本当なら朝言えば良かったんだろうけど、朝練の後ちょっと着替えるのが遅れて、教室が遠い一也はもう既に洋一とクラスに走っていってた後だったから言いそびれた。(なんでも1限が遅刻にすっげぇ厳しいやつだったんだって。ご愁傷様。)
んで帰ってきた言葉は、珍しく面倒くさそうな溜息と一緒だった。


「別にいいけど…、でも俺今日ちょっとセンセーに呼ばれてんだよ。」
「え!一也が!?」
「へぇ…珍しいこともあるんだね。栄純君なら分かるけど。」
「おいこら春っち!!ドサクサに紛れて何を言う!」
「本当のことでしょ。さっきもまた先生のチョークが命中してたくせに。」
「ぐぬぬぬ…!」
「あー…うん、栄純とはまた違った理由でさぁ…。」
「あ、やっぱりそうなんだ。」


…なんだか最近、一也と春っちの息が妙に合ってきた気がする。
特に俺をからかうだけからかってスルーするタイミングなんて、二人で打ち合わせでもしてんじゃねぇかってくらいだ。今も、箸をガジガジ噛んでる俺を放置したまま二人で話を進めてる。(ちなみに今日は購買パンじゃない。珍しく弁当。たまにはリッチな気分になってもいいと思ったし。まぁ、購買のワンコイン弁当だけども!でもこれが、成長期の男子高校生の胃を満たしてくれるくらいにはボリュームたっぷりで、結構人気があるから早く行かないとすぐに売り切れる。…のに、一也がいくと確実にゲットできたりする。なんでか聞いてみたら、「人徳?」って言われて最初意味わかんなかったけど、ちょっとしてから納得した。…オバサマキラーかコノヤロウ!高校生らしく正々堂々勝負しろよな!って文句は(妬みともいう)お陰で弁当食えるから1回だけにしといた。)


「にしても、寝てるとはいえピンポイントで栄純にチョーク当てた教師って誰?いい投手になれるんじゃない、ソイツ。」
「あ、えっとね、世界史の…。」
「あのいっつもすげー長い差し棒持ってる?」
「そうそう!その人。」
「礼ちゃんに頼んでスカウトしてもらっかなー。」
「あはは、そしたら栄純君更にタイヤ増やして走らなきゃいけなくなるね。」
「…おいこらそこの二人、二人して俺を苛めて楽しいか…!?」
「おう。楽しいな。」
「うん。楽しいね。」
「うおおおお…!俺のサンクチュアリはどこにー!!!」


にっこりと笑う二人の顔に悪魔が見えるぜ…!
案外すっごい気が合うんじゃなかろうか。この二人。二人とも頭の中割ったらすげぇ複雑に出来てそうだし。
最近専らこの手のからかわれ方することが多くて、流石にこの二人に結託されて俺に勝ち目はないから、とりあえずこれ以上傷をつけられる前に黙って弁当を掻きこむことに専念する。自分の分食ったら一也の唐揚げでも取ってやろうと思う。ささやかな仕返しだ。


「あ、そんで自主練だけど、用事終わってからだったらしてやってもいいぜ。」
「ふぁふじふぁ!!」
「……あのですね、口の中のモン喉に通してから喋ってくれますか。つーかその状態で叫ぶなよ。」
「ふあっふぇ、ふぁぶやぶぁ!!!」
「…お前、普段から日本語下手くそなのに更にどうしようもなくなってんぜ…。」


もぐもぐと口の中に大量にあったおかずやご飯をゴクリと喉を大きく鳴らして飲み込んで、勢い良く呆れ顔の一也に一歩身を乗り出して詰め寄る。


「俺の球受けてくれる!?」
「今日は練習も無いし、ちょっとくらいなら受けてやるよ。」
「マジか!」
「嘘ついてどうすんの。」
「だってお前いっつもなんだかんだ言って受けてくれねーじゃん!…あ!もしかしてセンセーに呼ばれたとか言いながら俺から逃げる気じゃねぇだろうな…!?」
「いやいやいや。それ、どこまで性格悪いのよ俺。ちゃんと受けてやるって。」
「ほんとに?」
「本当に。」
「…とかいって逃げたり…。」
「しませんから。…ったく、信用ねぇなぁ。」


グチグチいい続ける俺と、肩を竦める一也。
そんな掌を返して小さく溜息をつく一也と、睨む俺の攻防を静かに見ていた春っちが横で息を吐いたのが分かった。


「だったら栄純君、御幸君の用事が終わるまで教室で待ってればいいんじゃない?」


どうせ今日何もないんでしょ。と言われれば、それに反対する理由も無い。
流石だぜ春っち。最近完全に俺と一也の仲裁役が板について来て、こうしてとっとでも火花が飛びそうになると絶妙なタイミング助け舟を出してくれるようになった。

その言葉に俺も一也も了承して、丁度都合よく昼休みの終わりを告げるチャイムの音が鳴れば、残りの授業を消化するために、腰を上げた。














―――

少し小走りに足を動かして、途中走りながら覗いた教室の時計を一瞬チラリと見れば、既に授業が終わってから結構な時間が経過していた。
元々部活動が活発だということもあって、放課後まで校内に残っている人は少ない。
予定していた時間よりずっと遅いその時間に内心舌打ちをしながら、既に生徒の殆どが帰宅して閑散とした廊下を再び目的に向かって急ぐ。

呼び出された用事は特に特別なことではなかったけれど、少し時間が必要なことで。
野球部が厳しいことを知っている先生が気を遣って練習の無い日を選んでくれたのだろう。それはわかる。その気遣いには勿論感謝するが、でもやはり心の中で少しだけ恨めしく思った。

今でも教室で待っているであろう彼のことを考えると、更にその恨めしい気持ちが膨らんだ。
携帯を持ってこなかったのは失敗だった。
職員室に行くのだからと鞄の中に一応置いてきてしまったお陰で、先に行っててもいいと連絡すら出来なかった。


(怒るかなー。…それとも、やっぱ逃げた!とか思ってたりして。)


昼間あんなに疑っていたんだから。
こんなに遅れてしまっては、本当に俺が逃げたんじゃないかって普通に探してそうなのが想像出来るのがアイツの恐いところ。


「ほんと、バカだよな。…俺はお前から逃げたりしないのにさ。」


落とした独り言は、静かな廊下にポトンと落ちた。


(…や、それは嘘か。逃げてるもんな。)


自分の心の中にずっと前から暗雲を立ち込めさせている感情を振り払うように、動かす足の速度を速めた。

沢村栄純の“幼なじみ”の御幸一也は確かにお前から逃げないけど。
決して伝えない、伝えられない後ろめたさにゆっくりと蓋をしながら、俺は漸く見えた目的の教室のドアに手をかけた。




「…って、寝てんのね…。」


教室内が静かだったから、もしかしてとは思ったけど案の定。
そこには机に突っ伏した栄純が、一人貸しきりの広い教室で完全に夢の世界に旅立っていた。今にも口の端から涎が垂れそう。寧ろ垂れそうで垂れない絶妙なそれは逆に凄い。表面張力もびっくりだ。


「こら、えーじゅん。何寝てんだよ。」


近寄ってゆさゆさと肩を揺らす。
待たせて悪かったな、とは思うけど、よく考えたらこいつは基本お休み三秒。
時間かかるかもよって事前に言った時も、大丈夫待ってる、といった理由が今やっと分かった。
きっと元から睡眠時間に宛てるつもりだったわけだ。
何だかんだ言って寮暮らしなんてしてると、睡眠確保は結構至難の業だったりするし、最近倉持とゲームしてるらしいから夜更かしでもしてたんだろう。結構強めに揺するのに、起きないのがその証拠。


「えーいじゅん、栄純。」
「…んー…。」
「何だよお前、本気で寝てたら練習なんて出来ねーよ?」
「んー…。」


もごもご、もごもご、と口が動く。
けれど出てくるのは意味の無い唸り声ばかりで、俺はその様子にちょっとだけ笑った。
眉間に刻まれていく皺をぎゅっと人差し指で抑えて、そのままグリグリと押し付けてやる。
流石にちょっと力を込めると、肩を揺すっても起きなかった沢村の目がパチリと開いた。


「なんだ…!?なんの襲撃だ…っ!?」
「俺。」
「なんだ、一也か。…って!一也!!」
「よ。お待たせ。」
「今何時!?」
「5時過ぎ?…ごめん、ちょっと遅れた。」
「もうそんなに経ってたんだ…気づかなかった。」
「随分寝てたみたいだしな。」
「おう。正直終礼の記憶もねーし!」


なるほど、よく見れば栄純が枕代わりに机に引いていたのは、教科書のようだ。
授業が終わって(むしろ授業中から)睡眠時間にそのまま突入したパターンか。
聞いといてやれよ、授業。
まぁたまに俺も人のこと言えないけども。


「もういいのかよ?」
「いいぜ、鞄持ってきたし、もうこのまま行けるし。」
「やった!…っし、じゃあ早速行こうぜ!最低でも20球な!」
「はいはい。」


体を起こした栄純が体を伸ばす。
椅子をぐぐっと後ろに下げて、そのまま肩を回して背中を伸ばせば、ピキピキと少しだけ音が聞こえた。
ふー…と息を吸う音と深く吐く音を何度か力強く繰り返して、満足したのか、椅子に座った栄純がガッタガッタとその座っていた椅子を揺らした。


「にしても、一也と自主練やんのって久々な気がする!」
「そうか?…まぁ最近は部活中に調整しちまうしな。1日の球数そんな増やしたくねぇし。」
「絶対最低20な。絶対な!」
「分かってるって。」


嬉しそうに栄純が笑う。
本当コイツは、単純というかなんというか。
でもそんなコイツの顔を見て、仕方無いなぁ。と思ってしまう辺り、俺も結構単純だ。


「つーかお前、あんまり椅子ガタガタさせると危ないってーの!」
「だーいじょうぶだって!」
「大丈夫じゃねーっつの。ったく、早く来いよ、置いてくぞー。」
「え、ちょ、……!う、わ!」
「…っ、栄純!?」


俺の言葉に驚いて立ち上がろうとした栄純の座っていた中途半端な角度の椅子が、勢いで立ち上がったせいで、バランスを崩してぐらっと揺れた。
あ、と思ったときには遅く、ぐらりと椅子がうねった。だから、言わんこっちゃない。
しかもそれがまさかの、あるべき方向とは逆で。

背中を預けていた栄純の体が傾くのが、まるでスローモーションみたいに見えた。
反射的に、手を伸ばす。

「う、わ…!!!」


栄純が叫ぶ。
ほぼ反射的にぐっと腕を引けば、そのまま力任せに引っ張った。



ガシャーン!!



静かな部屋の中に、響く床に金属と板のぶつかる音がやけに響き渡った。
ガンッと音がして、同時に背中に鈍痛が走った。



「…っ、…!」



その瞬間。


ちゅっ、と。


続いて、先ほどの大音量のサウンドの後では聞き逃してしまいそうなほど小さな音が響く。


「え?」
「あ。」


瞬間、二人して間抜けな声を上げる。


あれ、今。何。…何。


引っ張った栄純はそのまま、力に導かれるまま俺の方へと倒れこみ、見事に俺を下敷きにしていた。どうやら椅子と運命を共にすることはなかったみたいで安心したけど、問題はその、距離。


吐息が触れるほど近い。
男の割りに大きい瞳が、間近で揺れた。
ふ、と栄純が吐いた息が唇を撫でて、先ほどの感触が一気に蘇る。


(え、ちょ、…待て、さっきの、まさか…。)


間違いであってほしい。
聞こえた音は、聞き間違いであって欲しい。


「…一也?」


俺の上の栄純が、俺の名前を呼ぶ。
向けられない目線をゆっくりと上げれば、そこには唇に指で触れる栄純のポカンとした間抜け面があって、じわわわっと唇が腫れたみたいに一瞬で熱を帯びた。


「…っ、ごめん!」


押しのけるように栄純の体を押して、勢いで立ち上がる。
ああなんだこの、悪夢みたいな、所業。


驚く栄純を気にかけてやる余裕は無い。ドクドク。煩い心臓を掴んで捨てたいと思った。
そのまま、無言で立ち上がって駆け足で先ほど急いで来た道を再び急いで辿る。


「一也、ちょ、どうした…!」
「ごめん、ちょっと、来なくていいから。」
「一也!?」


驚いたような栄純の声が後ろから追ってきたけど、ピシャリとドアを閉めることでそれをシャットアウトして、俺は廊下を走った。










それは、一生しまっておくべきはずの感情だった。
だって認めてしまえば、今まで築き上げてきたものが全部根本から崩れてしまうような気がして、だから、勘違いだと思うことにした。
大事な大事な幼なじみだから、まるで双子みたいに育ったから、親が子供を愛おしく思うように、兄が弟を思うように、ただそういう風に愛おしい気持ちが大きすぎるのだと、思うことにして忘れようとしていたのに。

これはちょっと、酷すぎる。
普段の行いが悪いからというのなら、神様は随分報復が残酷だ。


走りついた先はなぜか中庭の隅っこで、そこは既に校舎同様誰もいなくて内心ほっとした。
校庭や練習場じゃ、人に会う可能性が高いし、今は寮にも戻りたくなかった。
だから本能的に選んだのか、それでも結果人のいない空間が得られて、安心した。幾分か頭も冷えていくようだ。


(…事故でキスとか、今時漫画でもねぇよ。)


ベンチに座り込んで、突っ伏す。
ああかっこ悪い。普段の俺は一体どこに言ったんだ。
もっと余裕があって、何でもスマートに切り返せる俺はどこに消えたんだろう。本当に。
地面と見つめあいながら、軽く下唇を歯で押さえつけた。
じわり。また熱が蘇る。


今思えば、あの場で笑い話にしてしまったほうがよっぽど良かった。
変に逃げてしまったから、この後のことを考えないといけないことに気づいて、頭が痛くなる。
驚いたみたいな栄純の顔が頭に焼きついて離れない。
ぽかん、としていた間抜け面も。


(アイツはぜんっぜん何も考えてないんだろうな。考えるわけねーよな。はっは、笑えるぜ、本当に。)


周りから見たら、きっと俺が栄純を振り回しているように見えるんだろう。
だけど本当は違う。だって俺はいつだって結局こうして、アイツに振り回されっぱなしんだから。

重たい溜息を一つ漏らす。
その瞬間、パキッと近くで小枝が折れる音がした。


「何で逃げてんだよ、バカ一也。」


聞こえた声に、視線は上げなかったけど、誰かなんて確かめないでも分かる。


「来るなって言わなかったっけ?俺。」
「来るなって言われて俺が大人しくしてると思った?」
「…ま、来るだろうなとは思ったけど。」
「だろ。」
「何しに来たんだよ。」
「逃げられたら追いかけるだろ。…なんかお前、変だったし。」


二人の間に落ちる沈黙。
追ってきたくせに、きっとコイツは考え無し。
多分さっきのことについても、いつもみたいに何も考えてないんだろうし、何も感じてないんだろう。
本当に、“俺が逃げたから、追いかけてきただけ”。
動物みたいにその行動は素直で、そんな素直さに俺は昔から散々一喜一憂させられてきた。

だから、今回だって、俺も気にしなければいい。
いつも通り笑って、俺にもお前の阿呆っぽいところが移ったのかもな、なんて言って笑えばきっといつもの通りの軽口が戻ってくるはずだから。

そうすれば、好きなヤツとのキスに動揺してるなんて、バカなかっこ悪い姿を見せなくても済むから。

なのに、そう思って口を開こうとする前に、ベンチの隣の席にドカッと豪快に座った栄純がポツリと声を漏らした。


「さっきの、って…。」


ドクン。柄にも無く心臓が大きく跳ねた。


「……キス、になんのかな。」


驚いてピクリと肩が震えた。いっそ頭を思いっきり振って振り向きたかったけど、何とか堪える。
少ししてゆっくりと顔を動かして隣を見たら、既に灯が落ちて薄暗くなってきた辺りの色から浮くように、茜色が反射したみたいな栄純の真っ赤な顔があった。

それは、長く一緒にいた俺でも見たことがないような顔で、一瞬息を吐くのを忘れた。


「栄純…。」
「…逃げてんじゃねーよ。逃げないって言ったくせに。」
「それは、練習からだろ。」
「違う、俺から逃げんなって言った。」
「でもそれ言った時と状況が違うじゃん。」
「でも逃げないって言ったくせに、逃げた。」
「…そうだな。」


ごめん。
観念した俺が認めると、やっと栄純も背中をベンチに預けて、小さく息を吐いた。


「さっきの、だけど。」
「うん。」
「キスだろ。間違いなく。」
「…だよなぁ。」


肯定してやると、ふは、と栄純が笑った。おいこら、なんの笑みだよソレは。
普段から何考えてるか分かりやすいのに分かりにくいやつだけど、今は更に分からなかった。


なんで追いかけてきたんだよ。
なんで隣に座ってんだよ。
だよなぁ、って、お前それどういうつもりで言ってんの?


俺はお前が好きなんだよ、栄純。
そんなお前と、一生ありえないと思ってたことを、事故とはいえどしてしまって、どうしようと思うのと同時に半分ちょっと浮かれてるようなどこの乙女だってつっこまれそうなくらい俺が今おかしくなってんの、気づいてんの?それともただバカなだけ?


そんなこと、聞けるはずもないから、心の中で呟いた。


「あーあ…一也とキスしちまったぜ…、事故だけど。」
「それいうなら俺だってお前とキスしちゃったですけど。事故だけど。」
「なんだよ、光栄だろ。俺は青道の未来のエースなんだし!」
「関係ねーし……寧ろバカが移る前にうがいしとこ。」
「いい度胸だ、俺はいつでも戦う準備は出来てる!」
「そういう反応がバカっぽいんだっての。…ほんと、バカが移りそう。つーか、もう移ってたりして。」
「…それなら俺はちょっとは一也の頭いいとことか移ってねーかな。」
「あ。無理無理。お前のキャパじゃ絶対無理。」
「んだよもう!ああいえばこういう!」


ぷく、と頬を膨らませる栄純は本当に子供みたいだ。
ああ本当にどうして俺は、こんなヤツに惚れてしまったんだろう。


「…まぁ仕方ないだろ、事故だし。」
「…そうだな、事故だし、な。」


二人してそう繰り返す。
訪れた沈黙が意味するのはなんなんだろうか。
無防備に隣に置かれた手をチラリと見る。その俺の視線に、隣に座って空を見上げてるような栄純は多分気づいた。
けど、手は退けられる様子もない。
だから。

こっそりと重ねるように栄純の手に触れた。
その重なった場所から伝わってくるドクドクという早鐘を打つような鼓動に合わせて伝わってくる熱は、前に見たみたいな俺の妄想なんかじゃなくて、それはしっかりとした確かな温度で。
既に日が傾いた空の下では暗くてよく見えなかったけど、なぜかはっきりと確信した。


盗み見た栄純の顔が、赤いような気がするのはたぶんきっと、絶対、見間違いでも妄想でもない。

俺は緩く口の端に笑みを浮かべて、重ねた手に少しだけ力を込めた。








そんなに無防備だと、俺は調子に乗るよ。
大切だから大事にしてきたのに。
なぁ、栄純。答えろよ、仕方無いから認めてやる。逃げるなって言ったのはお前だろ?











俺はお前が好きだよ。

………なぁ、お前はどうなの。









***
キリリク、987番、こうつきしあこ様に捧げます。
「同級生パロ」で「事故キス」話。
沢村が思いを自覚するきっかけになれば…という素敵なリクエストを頂いたので、もう嬉々としながら楽しく書かせて頂いたのですが…!
完成してみれば、素敵シチュエーションをこれっぽっちも生かせていない感がむざむざと出ていて、自分のセンスのなさに呆れ通り越して笑みが零れました(どーん)
しかもまた無駄に長いっていうね…!
そしてお陰でとっても時間がかかってしまって申し訳ありませんでした…!
本当に心からお詫び申し上げます…!

事故でちゅーの場所はお任せ、とのことでしたので、色々試行錯誤した結果、もういっそチューしちまえばいいよお前ら!と、進行具合がもどかしい同級生パロで急展開(?)を見せると共に、御幸に不憫な思いとちょっと報われる思いをしてもらうことで落ち着きました。
…なんかもうすみません、いろいろすみません…!
やっぱり素敵シチュエーションが、生かせて…な…い…(パタリ)

いろいろと反省すべき点は多々ありますが、この度はキリリクのリクエスト本当にありがとうございました!
大変お待たせしてしまって申し訳ありませんでした(´;д;`)!
書き直し等24時間で受け付けますので何なりとお申し付け下さいませ…!

それではこの度はリクエストありがとうございました!
とっても楽しく書かせて頂きました〜^^
やっぱり御沢は最高…!
また、宜しければ遊びに来て頂けると嬉しいです。
リクエスト、ありがとうございました!




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