仕方が無い、年頃ですから | ナノ

仕方が無い、年頃ですから


*高校1年生秋



手のかかる幼なじみが、また突然無視を始めました。


(ホント、めんどくせーの、)


こいつの投げる球のようにぐねぐね曲がった分かりにくい栄純の性格は、もう随分小さい頃からこんな調子で、笑ってると思えばいきなり怒り出したり、拗ねてるかと思いきや突然はしゃぎだしたりと、読めないものではあったけれど…、歳を重ねれば重ねるほどにそれは改善されるどころか年々暴れ球に拍車がかかっていっている気がするのは絶対に気のせいじゃない。

高校で同じ寮に暮らすようになってからだろうか。
変なところで器用な栄純は、練習こそ公私を混同することはないものの、それ以外の面で本当にたまに幼い子供のように見えるような時があった。
中学までの方がまだしっかりしてたんじゃないか…などと思ってしまうくらいに。


今も、そう。

なぜか部屋を訪ねれば、そこには膨れっ面の栄純がいて、俺が声をかけてもうんともすんとも言わない。
かれこれ数十分になる。


「えーじゅん」
「………」
「栄ー」
「……………」
「あのさぁ…とりあえず無視はやめて貰ってもいい?」


一方的に話し掛けることのなんて虚しいことか。すると、久方ぶりに口を開いた栄純が、じっとこちらを見ながら小さくつぶやいた。


「………ずりぃ…」
「は?」
「一也、ずりぃ…」
「何が」
「監督もキャプテンもずりぃ…!」
「監督?結城さん?何で?」
「特に一也は一番むかつく…!」
「ちょっと、待て?意味わかんねぇし……!なんでキレられてんの俺…。」
「………っばーか!ばーか!一也のばかやろー!裏切り者!」
「ちょ、栄純…!いきなり、何…!」


しゃべりだしたかと思えばまさかの罵声に、さすがの俺も驚いた。


「どうせ一也に俺の気持ちなんてわかんねーよ!」
「……なんだそれ」
「…っ」
「……なんでそんなこと言うの、栄純」
「…っだ、って…」
「俺、お前にとってそんな頼りねぇの?裏切り者って何?俺、お前になんかした?」
「かずや…」
「お前のことはずっと見て来てるし、なんでもわかってやりてぇと思うけど、…ちゃんと言ってくんなきゃわかんねーこともあるよ。」
「……」
「なんかした?何に怒ってんの。……教えろよ、栄純。」
「…………………」
「……」
「……………………笑わ、ねぇ?」
「ああ。」
「絶対!?」
「笑わねぇよ、約束する。」


なんだ。そんな重大なことなのか。

よく見れば、栄純が膝の上で握る拳が小さく震えていた。
その様子に、俺も出来る限り真剣な声で呟きながら一つ大きく頷けば、栄純の口がゆるゆると動く。
急かしたい気持ちを押さえ込み、静かな空間で生唾をゴクリと飲み込む音だけが小さく響いた。



「………………………………………………ひげ。」



たっぷりと間を取って呟かれた言葉はあまりに端的で、危うく聞き逃すところだった。


「……………は?」
「だ、から!ひげだよ、ひ・げ!俺、まだ髭生えてこねぇのに!一也、今日朝、髭剃りしてただろ!俺ら幼なじみなのに、なんでお前だけ先越したりすんだよ!むかつく!ばか!ばか一也!」
「…………。」
「…………一也?」
「怒っ、てたの、って、それが原因、…?」
「そう!」
「…………………っ、は!」
「…!今、笑っただろ!」
「わ、ら、って、ね…!」
「ざけんな今ぜってぇ笑ったじゃねーか!一也のバカ!もうマジで絶交してやる!!!」
「だ、だか、ら!笑ってねぇし…!」
「だったらその締まりのねぇ顔少しは隠しやがれぇぇぇ!」


勢いよく立ち上がった栄純の顔は真っ赤で、そのまま俺の横を通り抜けて走り去っていった。(バカは逃げ足だけは早いっていうのは本当かもしれない。)


「髭、って…!」


ああもう、アイツは!


成長してねぇし、子供みてぇだし……ガキだガキだと思ってたけど、…変なところばっかりマセやがって。
中学生かってーの!


別にヒゲがどうこうで悩んでた栄純を笑ったわけじゃない。
そんなことを、真剣に悩むアイツが、




(どうしようもねーくらい、バカで可愛いんだよ、)




大胆告白をしてくれた幼なじみの機嫌を取るために、俺も扉に手をかけた。
とりあえず、あいつを見つけるまでに緩んだ顔だけはどうにかしようと口元を抑えながら。








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