22:00/小さな灯り |
栄純と、喧嘩した。 …ってそんなの、珍しいわけでもないんだけど。 今回は俺もちょっと柄にも無く少し頭に来たから、あいつの言葉をいつもみたいに受け流してやる余裕が無かった。 そのせいで、今日はまる一日、栄純と離れた生活を送るハメになって…。 なんであの時いつもみたいに笑って流してやれなかったんだと後悔しても遅かった。 昼休みには仲直りするつもりで対策も打ったのに空回りで、午後からの授業は(古典から始まるのも相俟って)殆ど寝て過ごした。…ホント、栄純じゃあるまいし。 『俺より、降谷の方がいいんだろ。』 言われた言葉を思い出しては、心の中で小さく溜息をつく。 本当、あいつってどこまでバカなんだろうと思う。 俺はこんなにも、あいつだけを見てるに。 いつだって栄純のことだけを考えてるのに。 何も分かってないのは、お前の方だろ、バカ。 俺の手から離れていかないように、必死になってるのは俺の方なんだよ。 今日はここで寝る!と、俺のベッドを占領してる栄純はスヤスヤと既に夢の中で、なんで本当、こんなガキみたいなヤツから、俺は昔から目が離せないんだろうと不思議になる。 ベッドを覗き込めば、間抜けに緩む顔がいっそ憎たらしい。 というか、それは俺のベッドなんですけど。俺の枕なんですけど。 なんでお前が勝手に寝て、俺が床で寝ないといけないハメになってて…つーか涎零すなよ、だから俺の枕なんだって、それ。 いっそ布団引っぺがして追い出してやろうかとも思ったけど、それが出来ない俺はやっぱり相当栄純に甘いと思った。 …俺が甘やかしすぎたからこんなバカに育ってしまったんだろうか。 それなら結局は俺が悪いんだから、自業自得なんだろうか。今こうして、俺の安眠を幸せそうな顔で妨害されてるのも、全部。 それなら仕方が無い、と溜息をついて、字を読むためにつけていたわずかばかりの灯りを消した。 たまには固い床で寝てみるのも悪くない。きっと。 明日は多分体中が痛いだろうけど。 そう、仕方無い。 (お前みたいなバカに惚れちまった俺が悪いんだよなぁ、きっと。) 小さな灯りが灯っていた室内に静寂と共に闇が訪れる。 同室者はまだ部屋に帰って来てはいない。帰ってこないならベッドを借りたいところだけど、もしかしたらまだ他の部屋で騒いでるだけかもしれないし。 さすがに先輩のベッドを勝手に拝借する気もなければ、後輩のベッドを勝手に占領する気も無かった。一応縦社会くらい、プライベートでは考えてるつもり。一応。 だからやっぱり俺には床以外の選択肢は無くて、とりあえず体を横たえて見る。…想像通りの感触にちょっと虚しい気になったのは言うまでも無い。 『なんで俺、お前と降谷が一緒にいるの見てあんなモヤモヤしたんだろ。』 (…そんなの、俺が聞きたいって。) その気持ちが嫉妬だと自惚れるには、俺は栄純のことを知りすぎてる。 幼なじみに構って貰えない寂しさ、…ま、そんなもんだろって客観視出来てしまうくらいには、俺は栄純を長く想い過ぎてる。 「俺はお前を、誰かと比べたことなんかねーよ?」 それは今までも、これからも。 「…ま、とりあえず、暫く喧嘩はしたくねぇな。」 案外響いた今日一日を思い出して、それだけは切に思った。 床に寝そべってみてもなんだか眠気は一向に訪れなかったから、ふとあることを考え付いて、体を起こした。 「…おやすみ。」 次の日の朝、同じベッドに寝てた俺に栄純が絶叫してまた喧嘩になりそうだったけど、その日の昼休みはいつも通り3人で昼飯食った。 …狭すぎて寝心地が悪かったって文句を言う栄純の顔がちょっと赤かったような気がしたのは、俺の都合のいい妄想だろうと思いながら。 [←] |