13:00/さて、 | ナノ

13:00/さて、



昼休みってのは、案外短い。
ご飯を食べて、ちょっと寝てたら、いつの間にか終わってる。そんなものだ。
だからいつもなら教室でぼんやりしてることが多いんだけど、なぜか今日は珍しく教室を出て廊下を歩いてた。
でもやっぱり頭はぼんやりしてたから、前から走ってきた人を避けきれずに、あっと思った時にはドンッと大きな衝撃音がして、既に遅かった。
ああ悪いコトしたな、って思ったけど、僕が謝るより前に、ぶつかってきた人が僕の下で大声をあげたから、僕は謝るタイミングを完全に見失ってしまった。


「悪い!怪我なかった…か…っ、…!」


言葉の始めこそ勢いよく飛んできたものの、どんどんとその言葉尻が小さくなっていく。
なんだろう、と思って下をゆっくりと見れば、そこにはなぜか目を見開く見知った人の姿。


「沢村、…先輩?」
「いや、そこにハテナつけんなよ!」
「沢村…先輩。」
「おう、…って降谷、なんでお前がここにいんの?ここ2年の教室廊下だけど!」


言われて、周りをよく見てみて気づく。
ああそういえば、なんかちょっと見たことない人でいっぱいだ。
ぼうっとしてるうちに、こんなところまで来てたのか。
なるほど疲れるはずだ、と思った。


「…なんでだろう。」


首をかしげて呟いたら、沢村先輩もぐるぐると不思議そうに目をきょろきょろさせた。
相変わらず、表情がくるくる変わる先輩だ、と思う。


「沢村、先輩は、どうしたんですか。」
「ん、や…ちょっと、」
「ああ…御幸先輩のところですか。」
「は!?いや、ちがくて!いや、違うくねーけど…、そうじゃなくて…っ!」


御幸先輩、と口に出せば、分かりやすいほど沢村先輩の様子が挙動不審になった。
あー!とかうー!とか、意味になってない言葉を叫ぶ様子はまるでちょっとおかしくなってしまった人みたいだ、と思う。

まるで僕と正反対の、人。
だけど僕と同じ、投手。

初めて見た時から、僕に無いものをいっぱい持ってる人だと、思った。
…ああ勿論、僕だけが持ってるものだって沢山あるんだけど。(なんでだろう。この人には負けたくないっていつも感じる。)

わたわたしてる沢村先輩を無言で見ていると、突然ピタリと動きを止めた先輩が、こっちを伺うように見上げて来て、ポソリと呟いた。


「…降谷は、さ…。」


自分の名前が聞こえて、くいっと視線を沢村先輩の目線にあわせる。先輩は僕より小さいから自然と…ね。


「降谷は、御幸に受けて貰いたくて、ここに来たんだよな?」
「…?そうですね。」
「アイツ、すげーだろ?」
「まぁ…俺の球取れる人、向こうにはいなかったから、驚きました。」
「だろ。…アイツ、すげーんだ。」


へら、と沢村先輩の顔が歪む。
なんだろう、笑ってるのに、笑ってない笑顔。
なんかこの人っぽくないなって思って、僕の眉も自然に寄る。
理由は分からないけど、この人にはこんな顔、して欲しくないって思った。
だからなのか、気づけば反射的に口を開いてた。


「…でも、御幸先輩言ってました、けど。」
「…一也?」
「俺、聞いたんです。なんで僕の球、そんなに簡単に取れるんですか、って。」


この人ならきっと僕の球を受けてくれる。そう信じて東京に出て来た。
だけど、期待の裏には不安も付き物。
だから早く試したかった。自分の体で、目で、実感したかった。
そしてまぁ、不安はたった一球で払拭されることになるんだけど。
その時につい、聞いてしまった。

「そしたらあの人…。」


『あー…、俺って天才じゃんか。』
『…ただの自慢ですか?』
『うん。そう。』
『…聞いた俺がバカでした。』
『ちょ、待て待て!勝手に帰んなって!』
『…。』
『ま、俺が天才なのは言わずと知れたことなんだけど。…昔から一緒に野球してるヤツの球がまためちゃくちゃ捕りにくくてさー。それが幼い純粋な俺はめっちゃくちゃ悔しくて。なんかいろいろしてるうちに、こうなってたわけ。』
『昔から一緒に…。』
『あの、性格乗り移ったみたいな暴れ玉は、今も健在だから、結構大変よ、俺。』


「それって、沢村先輩のことですよね。」


僕の話を聞いた沢村先輩が、目に見えて固まった。

「一也、が…。」
「…沢村せんぱ、」
「悪い!降谷!!」

聞こえたあまりに彼らしくないか細い声に一瞬だけドキリとしたけど、次の瞬間に沢村先輩は脱兎の如く僕の横を走り抜けて言って、声をかける暇さえなかった。



「…あ。しまった、今の話…。」


『お前、あのバカには絶対言うなよ、この話。』



そういえば、内緒にしろって言われてたんだっけ。


既に走り去ってしまった沢村先輩に、もう訂正することなんて不可能で、ちょっとだけしまったなと思ったけど、まぁいっか、と思う。


さて、そろそろ休憩時間も終わるし、教室に戻らないと。
残った時間は、やっぱり有意義に睡眠時間にでもあてよう、と思った。(まぁもうほんの少ししかないんだけど。)



「…今度、頼んでみようかな。」

あの人が取れなかったっていう球を投げる、あの人のいつも目線の先にいるあの先輩に。
僕と反対の、僕と同じ投手のあの人に。



「キャッチボールして下さいって…、…なんか柄じゃないけど。」




03



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