「……なぁ栄、」 結局しびれを切らして、先に声を発したのは俺の方だった。 その声に弾かれたように、ハッと栄純が顔を上げる。 あげられた顔に張り付けられていた、苦悩の表情は、無い頭で(いや、あることはあるのか。きっと根本的なところは俺らは同じなんだし。)いろいろとぐるぐる考えてたらしいことを物語っていた。 …普段、思ってること考えるより先に口に出すのに。こういう時だけ余計なこと考えやがって。 そんな栄だからこそ、俺は放っておけねぇんだよ。 「それは、栄の望みなの?」 「え?」 「俺から離れること、そんで、栄から俺が離れること。…それは、栄が“したいこと”?」 「ち、ちがう…。」 「俺はさ、栄と一緒に、いろんなもの見ておもしれーなって思いたいし、いろんなこと考えてわかんねーなって言いあいたい。だって二人のほうがずっと楽しいだろ?ずっとそうしてきたじゃん。」 「一也…?」 「それとも栄は、全部、ひとりのほうがよかった?」 少しだけ小さく落とした声に、ハッとして見開かれる、俺とはあんまり似てない大きな黒い瞳。 「…ちがう…!!」 「それに、頼られてんのは嬉しいよ。それに俺も、栄に頼ってる。」 「俺何もしてねぇけど…。」 「俺が帰ったら絶対に部屋あったかくしてくれてるし、いっつも俺の分もプリンとか買ってきてくれてんじゃん。そういうのだって、頼ってるっていうか…甘えてる、って言うだろ?」 「…。」 「友達にだって頼ったり頼られたりするやつや、普通につるむやつや…いろんな形があるんだから、兄弟だってそうでもいいじゃん。それに。」 「それに?」 「小湊と、亮介先輩は兄弟だけど、俺と栄は双子じゃん。兄弟より年も近いんだから、距離だって近くても問題なくね?」 何が問題ないのかは分からないけども。 そういって顔を覗きこんだら、暫く難しい顔をしてた栄純が、もごもごと小さく口を動かす。 そうか…、と静かな声がそこから漏れたと思えば、次の瞬間にはぱっと顔全体に満面の笑みが浮かんでいた。 「そっか!そうだよな!」 「そうそ。…って、だから話逸れてんだろ。続きやんぞ、続き。」 「う、…忘れてた…。」 「…教えたことは忘れてねーよな?」 「わ、わすれてません!」 元の位置に戻って、俺の声にピシッと背中を伸ばす栄純を見ながら小さく息を吐いて。 さっきまでの位置から、ほんの少しだけ栄純の方に体を寄せても、もう逃げられたりはしなくて。 逆に少しだけ触れる肩に、内緒で頬を緩めれば、誤魔化すようにカチカチと何度かシャーペンを強くノックした。 [←] |