「…わかった。」 | ナノ

 



「…わかった。」


え。


「わかった。喋んない。今から?」
「…英語教えてんだけど。」
「あ…、うん、でも、多分何とかなるし。」
「お前が赤点取ったら俺が親父から怒られるんだけど。」
「兄離れだから一也は関係ないって、俺から言うよ。」


“関係ない”

びっくりした。
この一言が、すっげーキた。
ズシーンっていうか、ガーンっていうか、体が一気に重くなったみてぇ。

産声を上げる前からずっと一緒にいたのに。
関係ない、なんて状態、俺らの間には存在してなかったのに。

今、こんな、たったこれだけ。
簡単なやり取りをきっかけに、こんなことが始まってしまうのか。


「とりあえず、俺が先に帰――」
「栄。」


ペンケースをしまおうと伸ばされた腕を掴む。力が入り過ぎていたのか、栄純が顔を顰めた。


「ウソだよ。」
「は?」
「冗談。兄離れとか、弟離れとか…そんなんしなくていい。」
「でも。」
「あいつらには好きに言わせとけ。だってそれこそ“関係ない”だろ?」


俺らのことは俺らの問題。外野なんて呼んじゃいない。
勝手なことほざいてりゃいいよ。


「一也から言い出したくせに。」
「冗談だって言ったろ?」


栄純のいない生活だって?それこそ何の冗談だ。
こいつは俺の半身。手放してたまるかってんだ。


「俺がいなきゃ栄は赤点取っちまうし。お前の成績悪いと先生たちからも俺が文句言われんだからな。」


だから面倒みてやると、っと言う俺に栄純はため息をついた。


「しょうがないな。じゃあ俺も一也にお世話“されて”やるよ。」


この一言が一番核心をついていたから、俺は何も言い返せなかった。







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